General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

ESBL産生菌による菌血症の標的治療で、ST合剤とフルオロキノロンは選択肢となりうる

【ESBL産生菌による菌血症の標的治療で、ST合剤とフルオロキノロンは選択肢となりうる】

 

概要:ESBL産生またはAmpCβラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌(E. coliまたはK. pneumoniae)による菌血症の標的治療におけるカルバペネム以外の経口(または筋注)抗菌薬の効果を検討した報告。後ろ向き研究で、propensity scoreを用いて解析を行った。101名を対象とした。尿路感染症63%、胆道系感染症15%。経口抗菌薬群(厳密には筋注も含む)は、ST合剤59.5%、フルオロキノロン21.4%。経口抗菌薬群で入院期間が短かった。30日死亡率は同等であった。

 

標的治療の定義:薬剤感受性が出た後の治療、かつ、全期間の50%以上を占める治療。

 

患者の特徴:sepsis/septic shockは20%程度、院内発症35%、pitt score 0-2(pitt scoreはカルバペネム群で有意に高かったが、それほど大きな違いではなかった)、E. coliが80%(全例ESBL産生菌)、K. pneumoniaeが20%、適切な初期治療はカルバペネム群で54%、経口抗菌薬群で31%、適切な治療までの期間はカルバペネム群で0日、経口抗菌薬群で2日。経験的治療期間の中央値はカルバペネム群で2日間、経口抗菌薬治療群で3日間、標的治療期間の中央値は両群で12日間。

 

経口抗菌薬群:ST合剤(4錠/日)とシプロフロキサシン(1回500mg 1日2回)がほとんどを占めるが、アミノグリコシド筋注が5名(4名GM、1名AMK)、AMPC/CVA 1名、ホスホマイシン2名。

 

結果:入院期間はカルバペネム群で12日、経口抗菌薬群で7日。治療失敗は、カルバペネム群15%、経口抗菌薬群5%。再燃は前者5%、後者2%。30日死亡率は前者10%、後者5%。すべて統計学的有意差なし。多変量解析で、治療失敗と関連したものは、CKDとESBL産生K. pneumoniaeによる感染症であった。

 

先行文献:ESBL産生菌による菌血症の治療において、フルオロキノロン系抗菌薬は、カルバペネムより、経験治療において死亡率が高かったが、標的治療では差がなかった(J Antimicrob Chemother. 2012;67(12):2793-803)。市中発症のESBL産生E. coliによる急性腎盂腎炎の治療でカルバペネムとその他の薬剤は同等であった(J Antimicrob Chemother. 2014;69(10):2848-56)。ESBL産生菌による感染症の治療において、ST合剤はほとんど検討されていない(Clin Microbiol Rev. 2018;31(2). doi: 10.1128/CMR.00079-17)。

 

Limitation:後ろ向き研究のため、カルバペネム群のほうが重症であった可能性が残る。サンプルサイズが小さすぎる。ほとんどの原因微生物がE. coliで、感染focusが尿路であった。経口抗菌薬群で、薬剤感受性判明後にカルバペネム系抗菌薬が数日程度投与された症例が14症例もあり、これによって経口抗菌薬治療群で成績がよくなった可能性がある(薬剤感受性試験結果判明後にカルバペネム系抗菌薬を使用したとしても、経口抗菌薬を全抗菌薬投与期間の50%以上使用していれば、経口抗菌薬群に含まれる)。

 

解釈:比較的軽症のESBL産生 E. coli菌血症/尿路感染症の標的治療において、経口摂取ができる患者であれば、状態が安定した段階で、内服のST合剤またはフルオロキノロン系抗菌薬に変更することは可能な可能性がある。これらを選択することによって、治療失敗は増加しないが、入院期間が短縮する可能性がある。

 

 

 

Non-intravenous carbapenem-sparing antibiotics for the definitive treatment of bacteremia due to Enterobacteriaceae-producing ESBL or AmpC β-lactamase. A propensity score study
Int J Antimicrob Agents. 2019 Aug;54(2):189-196.
doi: 10.1016/j.ijantimicag.2019.05.004
PMID:31075401

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0924857919301116?via%3Dihub