General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

COVID-19に対するRemdesivirの効果

COVID-19に対するRemdesivirの効果

 

まとめ

・重症COVID-19(酸素投与レベル)に対して、発症10日目以降のRemidesivirの効果は期待できない可能性が高い。早期投与の場合、症状改善を早める可能性がある。

・人工呼吸器管理が必要な最重症例に対する効果は不明である。

・早期投与(例えば発症から7-10日以内)による重症化予防効果も不明である。

 

1. Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial. Lancet 2020;395(10236):1569-1578.

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31022-9/fulltext

重症COVID-19(発症から12日以内)におけるRemdesivirの効果を検討した報告。多施設プラセボ対照無作為比較試験。二重盲検。対象者は、重症COVID-19:肺炎像あり、かつ、SpO2 94%未満(室内気)またはP/F 300以下(酸素投与 80%以上、NIV or HFNC 12-18%、人工呼吸器/ECMOは両群合わせて1名のみ)。レムデシビルは初日200mg、day 2-10 100mg/日。Primary endpointは、無作為化から臨床的改善または退院までの期間。症状出現からremdesivir投与前の期間の中央値は10日間。Primary endpointは両群で差なし(介入群21日 vs プラセボ群23日)。発症から10日以内にremdesivirが投与された場合、介入群で臨床的改善が早い傾向があった(18日 vs 23日)。28日死亡は、介入群14% vs プラセボ群13%で同等だった。ウイルス量の低下スピードは両群で同等。有害事象の頻度も同等。当初453名の登録が計画されたが、武漢でのoutbreakの制御状況とtermination criteriaによって、237名の登録で試験が終了となったため、統計学的パワーが低下していること、remdesivirの投与タイミングが発症から10日程度であること(早期投与ではない)、などのlimitationがある。

 

2. ACTT試験. NIH Clinical Trial Shows Remdesivir Accelerates Recovery from Advanced COVID-19.

https://www.niaid.nih.gov/news-events/nih-clinical-trial-shows-remdesivir-accelerates-recovery-advanced-covid-19

COVID-19(対象:入院が必要な中等症以上のCOIVD-19)におけるremidesivir(day 1 200mg/日、day 2-10 100mg/日)の効果を検討した報告。多施設・二重盲検・プラセボ対照無作為比較試験。2020.5.18時点で文献化はされていないが、2020.4.29の中間報告で、介入群で回復までの時間が31%早まり(11日 vs 15日、有意差あり)、致命率も介入群で低い傾向がみられた(8.0% vs 11.6%、p=0.059)。

 

3. Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020 Apr 10. doi: 10.1056/NEJMoa2007016.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2007016

53例の入院が必要な重症COVID-19患者に対するremdesivir(day 1 200mg/日、day 2-10 100mg/日)の効果を検討した観察研究。57%に人工呼吸器、8%にECMOが施行された。フォローアップ期間は中央値18日。臨床的改善は68%で見られた。追跡期間中の死亡は13%。観察研究であること、小規模な研究であること、ウイルス学的検討がないこと、単一アーム試験であることから、remdesivirの効果の有無はこの研究から判定することはできない。

 

唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度

唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度

 

まとめ

有症状者のCOVID-19診断において、鼻咽頭ぬぐい液PCRをreference standardとした場合の唾液PCRは、感度80-90%・特異度95%程度と報告されている。患者への侵襲度が低く、医療従事者への感染のリスクも低いことから、今後実用化される可能性が高い。

 

1. Saliva Sample as a Non-Invasive Specimen for the Diagnosis of Coronavirus disease-2019 (COVID-19): A Cross-Sectional Study. Clin Microbiol Infect. 2020 May 15;S1198-743X(20)30278-0. doi: 10.1016/j.cmi.2020.05.001.

https://www.clinicalmicrobiologyandinfection.com/article/S1198-743X(20)30278-0/fulltext

COVID-19の流行地域(2020.3.27-2020.4.4のタイのバンコク)の急性気道感染症クリニックに受診した成人患者の唾液と鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液のSARS-CoV-2 PCR検査を前向きに集めて検討した報告。200名の患者が対象となった。患者は、発症から3日目で受診(IQR:2-7日)唾液は、咳をしないようにして患者自身が採取した(エアロゾル発生リスク・医療者への感染リスクが低い)。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液PCRをreference standardとすると、9.5%がCOVID-19と診断され、唾液PCRの感度は84.2%、特異度98.9%であった(唾液PCRのみの場合受診者の9.0%がCOVID-19と診断された)。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液PCRと唾液PCRの一致率は97.5%だった。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液が陰性で、唾液で陽性になったのは2例、その逆は3例だった。鼻咽頭ぬぐい/咽頭ぬぐい液と唾液のCt値(ウイルス量)は同等だった。COVID-19の重症度の記載はなし(clinicでの検査のため、おそらく軽症から中等症)。

結論:COVID-19を疑う患者において、唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度は高く、鼻咽頭ぬぐい液と比較して感度90%程度・特異度約100%と予想される。ただし、無症状病原体保有者における精度は不明である。

 

2. Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020 Apr 21. pii: JCM.00776-20. doi: 10.1128/JCM.00776-20.

https://jcm.asm.org/content/early/2020/04/17/JCM.00776-20.long

COVID-19患者(外来)で、鼻咽頭ぬぐい液PCR陽性例の84.6%で唾液PCRが陽性だった。ウイルス量は、鼻咽頭ぬぐい液のほうが有意に高かった。

 

3. Saliva: potential diagnostic value and transmission of 2019-nCoV. Int J Oral Sci. 2020 Apr 17;12(1):11. doi: 10.1038/s41368-020-0080-z.

https://www.nature.com/articles/s41368-020-0080-z

COVID-19と唾液。唾液の診断における有用性と唾液による感染伝播についての総説。

 

4. Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. [preprint:査読未 2020.5.21現在]

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1#disqus_thread

唾液SARS-CoV-2 PCRは、鼻咽頭ぬぐい液PCRより、ウイルス量が多く、感度(論文中での比較は不十分)が高い可能性がある。プレプリント。侵襲性が低く、採取時に医療者が曝露しないため、今後の研究に期待。

 

COVID-19診断におけるPCRの偽陰性

COVID-19診断におけるPCR偽陰性

 

Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure. https://doi.org/10.7326/M20-1495.

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1495

SARS-CoV-2曝露(感染)後の日別のSARS-CoV-2 PCR検査(上気道検体)の偽陰性率を評価した研究。7つの研究を解析(N=1330)。対象患者は、入院+外来患者。発症日をday 5とした場合、発症までの期間では、偽陰性は徐々に減少する(曝露後day 1:100%、day 4:67%)。day 5:38%、day 8:20%(最低値)、その後徐々に偽陰性は増加して、day 21:66%。発症4日目(曝露後8日目)がもっとも感度が高い(偽陰性が少ない)。症状発症の翌日から5日後にかけての感度が良好である。

この研究から、連続してPCR検査を行うことの有用性はわからない(各検査に独立性があれば、複数回施行することによって、感度は上昇し、偽陰性率は低下する)。偽陰性の結果と感染性の関連は不明(本当はCOVID-19患者だが、PCR検査が陰性の患者は、感染性が低い可能性はあるが、その真偽はわかっていない)。対象とした研究は、少なくとも1回のPCR検査が陽性になった症例を「真の陽性例」と定義しているため、1回も陽性となったことのないCOVID-19患者は含まれていない(これによって真の偽陰性率を過小評価するかもしれない)。また、この研究の対象は、1回のCOVID-19患者への曝露があった患者を対象としているため、継続して曝露し続ける医療従事者は含まれていない。

COVID-19流行地域での市中肺炎診療

COVID-19流行地域での市中肺炎診療

 

Treatment of Community-Acquired Pneumonia During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic. Ann Intern Med. 2020 May 7. doi: 10.7326/M20-2189.

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-2189

 

1. COVID-19と確定診断されていない市中肺炎患者において、細菌性肺炎としての経験的治療を推奨する。ただし、COVID-19と確定診断された場合、すべての患者に対して細菌性肺炎の経験的治療が必要なわけではない。

 

2. dataは限られているが、COVID-19の患者における細菌性肺炎(市中発症)の原因微生物は、通常の市中肺炎と同じであるため、経験的治療に選択する抗菌薬は同じもの(CTRX+AZM or LVFX)を推奨する。

 

3. 喀痰培養と血液培養は、多剤耐性菌(緑膿菌MRSA)を考慮する場合に有用である。

 

4. プロカルシトニンは、COVID-19患者における抗菌薬の過剰使用の抑制に有用かもしれない(ただし、COVID-19でプロカルシトニン上昇を示した報告もある)。

 

5. COVID-19患者で、呼吸不全を引き起こす肺障害に宿主の免疫学的プロセスが重要な役割を果たしている可能性が高いが、immunomodulating therapy(副腎皮質ステロイドなど)は現時点では推奨されない。

 

※この推奨は、市中肺炎(入院前のCOVID-19と細菌性肺炎の重複感染)についてのものであり、入院後に発症する院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎については言及していない。

SARS-CoV-2の安定性(viabilityはいつまで?)とエアロゾルについて

SARS-CoV-2の安定性(viabilityはいつまで?)とエアロゾルについて

 

まとめ

SARS-CoV-2の環境表面でのviabilityの期間は、紙・ティッシュペーパー・ダンボールは24-48時間以内、木・布は2日以内、ガラスは4日以内、ステンレス・プラスティックは3-7日以内。理由は不明だが、サージカルマスクから14日目に検出された報告がある。

SARS-CoV-2 PCR陽性でも、ウイルス培養は陰性である可能性がある。

エアロゾル感染の決まった定義は存在しない。飛沫感染+飛沫核感染(空気感染)を包括している概念と考えてよいと思われる。会話で発生する粒子は、飛沫(5μm以上)である。

・実験室の環境におけるエアゾロル中のウイルスは、3時間以上viabilityを保持するが、半減期は1.1-1.2時間である(この実験では、5μm未満の飛沫核)。

・空気感染隔離室(陰圧室)において、患者から3-4m離れたところまでエアロゾルは到達しうる(ただしこれを示した研究は、PCRのみ施行しており、viabilityは検討していない)。

エアロゾルの確立した定義はない。また、エアロゾル感染=空気感染ではない。エアロゾル感染は、飛沫感染+空気感染(飛沫核感染)を包括した用語である。ただし、研究によって、エアロゾル=飛沫核、と定義しているものもある。

 

文献

1. Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions. Lancet Microbe 2020 Published Online April 2, 2020.

https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3

・環境中におけるSARS-CoV-2の安定性を検討した研究

・4℃の環境で安定(14日以上感染性が確認された)

・70℃の環境では5分以内に不活化される

・ウイルス培養が陽性となる期間

紙、ティッシュペーパー:3時間以内

木・布:2日以内

ガラス、紙幣:4日以内

ステンレス、プラスティック、サージカルマスク内層:7日以内

サージカルマスク外層:14日以上

・smooth surfaceでは、ウイルス量が減少すると半減期が延長する現象がみられた

・ウイルス培養陰性の検体でPCR陽性例が存在した

 

2.Droplets and Aerosols in the Transmission of SARS-CoV-2. N Engl J Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1056/NEJMc2009324.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2009324

・会話や呼吸によって、飛沫やエアロゾルが生成され、感染伝播の原因となりうる

 

3. Visualizing Speech-Generated Oral Fluid Droplets with Laser Light Scattering. N Engl J Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1056/NEJMc2007800.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2007800

・会話による飛沫(一般的な飛沫核の定義:直径5μm以上)を可視化した報告

・「stay healthy」によって、20-500μmの飛沫が多数発生

・会話の音量が大きいほど、flashの数が増加した

・ある研究では、会話で放出される飛沫は、咳やくしゃみの時よりも小さかった

・いくつかの研究では、会話で放出される飛沫は、咳の場合と、数は同等であった

・この報告は、飛沫核・エアロゾルについては検討していない

 

4. Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973

SARS-CoV-2のエアロゾル(この論文では5μm未満:飛沫核)内・環境表面における安定性を評価した研究

・コリゾンネブライザー(ジェットネブライザーの1種)でSARS-CoV-2を含むエアロゾルを生成して、ドラム(Goldberg drum)にそれを入れて、viabilityを測定したところ、3時間の時点でviabilityが確認された

・プラスティックとステンレス上では、それぞれ72時間・48時間まで安定性が確認された(プラスティックでは96時間時点、ステンレスでは72時間時点で、viabilityは消失)

・銅上では、4時間後にviabilityは消失していた(表をみると8時間以内)

ダンボール上では、24時間以内にviabilityは消失していた(表をみると48時間以内)

半減期エアロゾル内1.1-1.2時間、ステンレス上5.6時間、プラスティック6.8時間

 

5. Aerodynamic analysis of SARS-CoV-2 in two Wuhan hospitals. Nature. 2020 Apr 27. doi: 10.1038/s41586-020-2271-3.

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2271-3

・COIVD-19がoutbreakしていた中国武漢の2つの病院で、病院内のエアロゾル(長径5μm以下という定義は採用していない)のSARS-CoV- 2 RNAを測定・検討した報告

・隔離病棟・人工呼吸器患者の病室の空気中のRNA濃度は非常に低かった(高頻度の換気によるものと考えられる)が、床(患者ベッドから約3m離れていたエリアまで)はウイルスで汚染されていた

・PPEを着脱する部屋(粒子の大きさは0.25-0.5μmと小さい傾向にあり、PPEを脱ぐ際に小さなエアロゾルが発生するのかもしれない)や医療スタッフの更衣室の空気中で、ウイルスRNAが検出された

・患者が使用するトイレエリアでRNA濃度が高かったことから、換気の悪い狭い区画は感染のリスクが高い可能性がある

・空気中のRNAは、ほとんどのpublic areaで検出されなかった(混雑している2箇所で検出)

・一部の医療スタッフエリアで、エアロゾルサイズの領域にウイルスRNAが検出されたが、厳格な除菌によって検出不可能なレベルまでウイルス量は低下した

・感染性についての検討はしていない

 

6. Aerosol and Surface Distribution of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Hospital Wards, Wuhan, China, 2020. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885.

https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/7/20-0885_article

・中国武漢のCOVID-19病院の空気と環境表面(スワブを使用)をサンプルとして、SARS-CoV-2 PCRを施行した。ICU・一般病棟ともに陰圧室という記載はないが、isolation wardかつ各部屋のairflowが決まっているため、おそらく陰圧室と思われる。この研究では、ウイルスのviabilityは検討していない。

・ほぼすべてのPCR陽性はレッドゾーンに集中していた。

ICUは、一般病棟より陽性率が高かった(43.5% vs 7.9%)。ICUPCR陽性だった場所は、床(70%で陽性)・コンピューターマウス・ゴミ箱・ベッドの手すり・患者マスク・排気口フィルター。PPEでは、フェイスシールドの汚染はなかったが、ガウンの袖口・手袋で、PCR陽性。医療スタッフの靴の裏のPCRも陽性だった。semicontaminated areaであるPPE着脱する部屋の床で少量のウイルスが検出された。特にICUのレッドゾーンの床と医療者の靴の裏のPCR陽性率は高かった。

・一般病棟でPCR陽性となったのは、床(8.3%で陽性)・ドアノブ・ベッドの手すり・患者マスク・コンピューターマウス/キーボードなどだったが、ICUと比較してウイルス量は少なかった。PPEや医療従事者の靴の裏の汚染はなかった。廊下の床の汚染はなかった。Semicontaminated areaの汚染もなかった。

・グリーンゾーンの床はPCR陰性だった。

ICUの空気サンプルの35%と一般病棟の空気サンプルの12.5%で、PCR陽性がだった。空気排出口スワブサンプルも陽性だった(ICU:66.7%、一般病棟:8.3%)。空気採取場所によってPCR陽性率が異なっていた(患者周囲、排気口で陽性率が高かった)。ICUにおいて、SARS-CoV-2が含まれるエアロゾルは、患者から4mまで到達する可能性がある(患者の頭から4m離れた排気口とは別の場所で、8サンプル中1サンプルでPCRが弱陽性となった)。一般病棟では、患者の頭から2.5m離れたairflowの上流(給気口)の11サンプル中2サンプルでPCR陽性だった。red zoneの廊下の空気は全例PCR陰性だった。

エアロゾル感染を起こす最小のウイルス量が不明のため、エアロゾル伝播を起こしうる距離は不明である(4m以内である可能性が高い)。靴の底は触らない(普段から触らない)、床を触らない(普段から触らない)、靴を触ったら手指衛生、が重要である。

 

 

注意:「エアロゾル」について

・気体中に微粒子が多数浮遊した状態(ほこり、花粉、霧などが含まれる)

・その微粒子の大きさは、数nmから100μm程度まで様々である

・「エアゾロル感染」とは、飛沫感染と飛沫核感染を含有していることが多い

・「エアロゾル感染」の世界的に統一された定義は存在しない

・「エアロゾル感染」は、厳密には、飛沫核感染(空気感染)とは異なる

・ただし、「エアロゾル」=飛沫核(直径5μm未満)と定義している研究もある

COVID-19と動物

COVID-19と動物

 

まとめ

・ネコ-ネコ感染、フェレット-フェレット感染、ヒト-イヌ感染が報告されている

・小規模な研究では、ネコとイヌには症状がなかった

 

1. Transmission of SARS-CoV-2 in Domestic Cats. N Engl J Med. 2020 May 13. doi: 10.1056/NEJMc2013400.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmc2013400

SARS-CoV-2を接種されたネコは、day 6まで鼻腔ぬぐい液PCRが陽性だった。ウイルスを接種されたネコと同じ檻(0.56m X 0.81m X 1.07m)で過ごしたネコ(3ペアで実験)は、day 3-6までに鼻腔ぬぐい液PCRが陽性となった。直腸スワブPCRはすべてのネコで陰性だった。6匹(3ペア)とも症状はなかった。ネコ→ネコ感染が示された。ヒト→ネコ→ヒト感染の可能性については、今後検討が必要である。

参考:CDCの推奨https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/daily-life-coping/pets.html

 

2. Infection of dogs with SARS-CoV-2. Nature. 2020 May 14. doi: 10.1038/s41586-020-2334-5.

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2334-5

飼い主がCOVID-19に罹患したペットのイヌの鼻腔・口腔・直腸スワブSARS-CoV-2 PCR陽性が判明した2例。全ゲノムを解析した結果、2例とも飼い主とイヌのウイルスは同一のものであることが示された。イヌに症状は出現しなかった。ヒト→イヌ感染が示された。イヌ→ヒト感染の可能性については、今後検討が必要である。

 

3. Infection and Rapid Transmission of SARS-CoV-2 in Ferrets. Cell Host Microbe. 2020 May 13;27(5):704-709.e2. doi: 10.1016/j.chom.2020.03.023.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312820301876

SARS-CoV-2に感染したフェレット(COVID-19患者から分離されたSARS-CoV-2を鼻腔内に接種した)からの感染伝播について検討した研究。感染したフェレットは、鼻腔洗浄液・唾液・尿・便にウイルスを排泄した(感染8日目まで)。別のフェレットに、直接接触(同じ檻で生活)または間接接触(隣接した檻で生活、airborne transmission?)により、感染伝播させた。直接接触は6/6例、間接接触では2/6例で感染が確認された。直接接触したフェレットは全例で発熱を認めたが、間接接触したフェレットは発熱を認めなかった。

COVID-19:SARS-CoV-2抗体検査について

COVID-19:SARS-CoV-2抗体検査について

 

まとめ

IgMとIgGは、発症2週目から上昇し始める

・発症10-14日目でIgGの感度は90%以上(reference standardはRT-PCR検査)となる

・急性期の診断に、あまり有用ではない

・検査方法、キットの種類によって、精度が異なる可能性がある

 

1. COVID-19 and Postinfection Immunity. Limited Evidence, Many Remaining Questions. JAMA. Published online May 11, 2020. doi:10.1001/jama.2020.7869

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766097

SARS-CoV-2の免疫。感染後に免疫(再感染を防ぐ・重症化を防ぐ)ができるかどうか不明。動物実験や抗体値の推移の検討から、少なくとも一時的に再感染を防ぐ免疫が成立する可能性が示唆される。IgMとIgGは、発症から2週くらいで上昇する。抗体の出現と症状改善の関係は不明。中和抗体が存在する期間は不明。現在までに、再感染の確定例はない。陰性化した気道検体PCRが再度陽性になることはある。PCR検査は、10-20日後に再度陽性になる例がある。原因は、再燃・再感染・ウイルス量の変動が鑑別。再度陽性になった患者からの感染伝播は報告されていない。抗体検査の精度はキットにより様々。

 

2. Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients with COVID-19. Nat Med. 2020 Apr 29. doi: 10.1038/s41591-020-0897-1.

https://www.nature.com/articles/s41591-020-0897-1

COVID-19患者におけるSARS-CoV-2に対するIgMとIgG(CLIA法)を検討した報告。seroconversionの中央値は、ともに発症13日目。IgGは発症から19日で感度100%。重症COVID-19では、day 8-14のIgGの抗体価が、軽症例より有意に高かったが、その他の状況では重症度によって差なし。

 

3. Assessment of immune response to SARS-CoV-2 with fully automated MAGLUMI 2019-nCoV IgG and IgM chemiluminescence immunoassays. Clin Chem Lab Med. 2020 Apr 16. pii: /j/cclm.ahead-of-print/cclm-2020-0473/cclm-2020-0473.xml. doi: 10.1515/cclm-2020-0473.

https://www.degruyter.com/view/journals/cclm/ahead-of-print/article-10.1515-cclm-2020-0473/article-10.1515-cclm-2020-0473.xml

SARS-CoV-2抗体(CLIA法)のCOVID-19の入院患者における精度についての報告。発症から5日依然では、感度はIgMとIgGともに0-10%。5-10日目は、15.4-53.8%(製品によって異なる)。10日目以降では、IgGは100%(MAGLUMIのIgMは60%だった)。

 

4. Evaluation of Nucleocapsid and Spike Protein-based ELISAs for detecting antibodies against SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020 Mar 30. pii: JCM.00461-20. doi: 10.1128/JCM.00461-20.

https://jcm.asm.org/content/early/2020/03/27/JCM.00461-20.long

SARS-CoV-2抗体(IgMとIgG)の入院が必要なCOVID-19患者での精度(ELISA法)。day 10以降で陽性率が高い。

 

5. Analytical performances of a chemiluminescence immunoassay for SARS-CoV-2 IgM/IgG and antibody kinetics. Clin Chem Lab Med. 2020 Apr 16. pii: /j/cclm.ahead-of-print/cclm-2020-0443/cclm-2020-0443.xml. doi: 10.1515/cclm-2020-0443.

https://www.degruyter.com/view/journals/cclm/ahead-of-print/article-10.1515-cclm-2020-0443/article-10.1515-cclm-2020-0443.xml

SARS-CoV-2抗体。CLIA法。IgG陽性率はday 6-7から上昇し、day 12に感度100%となる。IgMも同様な経過をたどるが、感度は88%までしか上昇しなかった。

 

6. Serological tests facilitate identification of asymptomatic SARS-CoV-2 infection in Wuhan, China. J Med Virol. 2020 Apr 20. doi: 10.1002/jmv.25904.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jmv.25904

無症状SARS-CoV-2感染者に対するIgG抗体検査の有用性。中国のdata。イムノクロマト法。標的蛋白記載なし。2020年4月に武漢で仕事を再開する1021名全員で、核酸増幅法は陰性だったが、IgGは9.60%で陽性だった(IgMは陰性)。

 

7. Serological immunochromatographic approach in diagnosis with SARS-CoV-2 infected COVID-19 patients. J Infect. 2020 Apr 10. pii: S0163-4453(20)30175-4. doi: 10.1016/j.jinf.2020.03.051.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0163445320301754?via%3Dihub

SARS-CoV-2 IgMとIgG。イムノクロマト法。Day 7以前ではIgMとIgGを組み合わせても感度は10%程度。day 8-14でIgM 78.6%、IgG 57.1%、IgM+IgG 92.9%。day 15以降でIgGの感度96.8%。臨床的にCOVID-19が疑われるが、PCR陰性の症例において、IgM+IgGは、43.6%で陽性となった(PCR偽陰性 or 抗体検査偽陽性)ので、PCR陰性例のCOVID-19診断おいて、有用な可能性がある(しかし、ただの抗体検査の偽陽性の可能性もあるので、解釈は難しい)。標的蛋白記載なし。

 

8. Evaluation of the auxiliary diagnostic value of antibody assays for the detection of novel coronavirus (SARSCoV‐2). J Med Virol. 2020 Apr 22. doi: 10.1002/jmv.25919.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jmv.25919

SARS-CoV-2 IgMとIgGの精度を検討した報告(N=38)。イムノクロマト法。15分で結果が判明する。IgGのday 8-14とday 15以降の感度(87.5%, 91.3%)が高かった。IgMは、day 8-14で感度50%、day 15以降で52.2%だった。標的抗原についての記載なし。

 

9. Antibody Detection and Dynamic Characteristics in Patients with COVID-19. Clin Infect Dis. 2020 Apr 19. pii: ciaa461. doi: 10.1093/cid/ciaa461.

https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa461/5822173

SARS-CoV-2抗体(ELISA)のCOVID-19確定(RT-PCR陽性)患者における精度の検討。標的はNP。IgMの感度77.3%、特異度100%。IgGの感度83.3%、特異度95%。IgM陽性率は緩徐に上昇(50%を超えたのはday 11)する一方で、IgG陽性率は急激にday 12-15(50%→83.3%)から上昇した。

 

10. 迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価. 国立感染症研究所website. 2020.4.1.

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/9520-covid19-16.html

COVID-19発症6日までの血清で、IgM・IgG抗体陽性例はほぼなし。Day 7-8で、IgM 10%、IgG 25%。Day 9-12でIgM 4.8%、IgG 52.4%。day 13以降でIgM 59.4%、IgG 96.9%。日本のA社(会社名の公表なし)の抗体検査キットを使用した。