General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度

唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度

 

まとめ

有症状者のCOVID-19診断において、鼻咽頭ぬぐい液PCRをreference standardとした場合の唾液PCRは、感度80-90%・特異度95%程度と報告されている。患者への侵襲度が低く、医療従事者への感染のリスクも低いことから、今後実用化される可能性が高い。

 

1. Saliva Sample as a Non-Invasive Specimen for the Diagnosis of Coronavirus disease-2019 (COVID-19): A Cross-Sectional Study. Clin Microbiol Infect. 2020 May 15;S1198-743X(20)30278-0. doi: 10.1016/j.cmi.2020.05.001.

https://www.clinicalmicrobiologyandinfection.com/article/S1198-743X(20)30278-0/fulltext

COVID-19の流行地域(2020.3.27-2020.4.4のタイのバンコク)の急性気道感染症クリニックに受診した成人患者の唾液と鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液のSARS-CoV-2 PCR検査を前向きに集めて検討した報告。200名の患者が対象となった。患者は、発症から3日目で受診(IQR:2-7日)唾液は、咳をしないようにして患者自身が採取した(エアロゾル発生リスク・医療者への感染リスクが低い)。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液PCRをreference standardとすると、9.5%がCOVID-19と診断され、唾液PCRの感度は84.2%、特異度98.9%であった(唾液PCRのみの場合受診者の9.0%がCOVID-19と診断された)。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液PCRと唾液PCRの一致率は97.5%だった。鼻咽頭ぬぐい液/咽頭ぬぐい液が陰性で、唾液で陽性になったのは2例、その逆は3例だった。鼻咽頭ぬぐい/咽頭ぬぐい液と唾液のCt値(ウイルス量)は同等だった。COVID-19の重症度の記載はなし(clinicでの検査のため、おそらく軽症から中等症)。

結論:COVID-19を疑う患者において、唾液SARS-CoV-2 PCR検査の精度は高く、鼻咽頭ぬぐい液と比較して感度90%程度・特異度約100%と予想される。ただし、無症状病原体保有者における精度は不明である。

 

2. Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2. J Clin Microbiol. 2020 Apr 21. pii: JCM.00776-20. doi: 10.1128/JCM.00776-20.

https://jcm.asm.org/content/early/2020/04/17/JCM.00776-20.long

COVID-19患者(外来)で、鼻咽頭ぬぐい液PCR陽性例の84.6%で唾液PCRが陽性だった。ウイルス量は、鼻咽頭ぬぐい液のほうが有意に高かった。

 

3. Saliva: potential diagnostic value and transmission of 2019-nCoV. Int J Oral Sci. 2020 Apr 17;12(1):11. doi: 10.1038/s41368-020-0080-z.

https://www.nature.com/articles/s41368-020-0080-z

COVID-19と唾液。唾液の診断における有用性と唾液による感染伝播についての総説。

 

4. Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. [preprint:査読未 2020.5.21現在]

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1#disqus_thread

唾液SARS-CoV-2 PCRは、鼻咽頭ぬぐい液PCRより、ウイルス量が多く、感度(論文中での比較は不十分)が高い可能性がある。プレプリント。侵襲性が低く、採取時に医療者が曝露しないため、今後の研究に期待。