General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

COVID-19の診断ガイドライン(IDSA 2020)

COVID-19の診断ガイドライン(IDSA 2020)

https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-diagnostics/

 

推奨1:COVID-19の臨床的疑いが低い場合であっても、COVID-19が発生している疑いのあるcommunityの症状のある患者に対して、SARS-CoV-2の核酸増幅検査を行うことを推奨する(strong recommendation, very low certainty of evidence)。

・症状のある患者=COVID-19に一致する最も一般的な症状のうち少なくとも1つ有する患者(咳、呼吸困難、発熱、悪寒、悪寒戦慄、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、味覚・嗅覚低下)

・臨床評価のみでCOVID-19の診断を正確に行うことはできない

・外来での核酸増幅検査の結果は、48時間以内であることが望ましい

 

→COVID-19流行地域で、COVID-19を疑う症状が1つでもあれば、PCR施行

 

推奨2:COVID-19疑いの上気道感染症またはインフルエンザ様疾患の症状を持つ患者において、SARS-CoV-2 RNA検査を行うために、咽頭スワブまたは唾液のみを採取するより、鼻咽頭スワブ・中鼻甲介スワブ・鼻腔スワブを採取することを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・この推奨は、複数の検体を組み合わせて検査を行うことについては触れていない

 

→上気道感染症の症状のあるCOVID-19では、鼻咽頭スワブPCR検査のために提出

 

推奨3:COVID-19の疑いがある上気道感染症またはインフルエンザ様疾患の症状を持つ患者に対して、患者または医療従事者がSARS-CoV-2 RNA検査のために鼻腔または中鼻甲介スワブ検体を採取することを提案する(conditional recommendation, low certainty of evidence)。

・自己採取の研究の大部分は、医療従事者の立会いのもとで実施されている

・無症状の患者における自己採取に関するデータはない

 

→現在日本では行われていない(鼻咽頭ぬぐい液を医療従事者が採取する)

 

推奨4:COVID-19(下気道感染症=肺炎)が疑われる入院患者において、SARS-CoV-2 RNA検査のために下気道サンプルではなく上気道サンプル(鼻咽頭スワブなど)を最初に採取する戦略を提案する。最初の上気道サンプルの結果が陰性であり、疾患の疑いが依然として高い場合、別の上気道サンプルを採取するのではなく、下気道サンプル(例:喀痰、気管支肺胞洗浄液、気管吸引液)を採取することを提案する(conditional recommendations, very low certainty of evidence)。

・入院患者の核酸増幅検査の結果は、24時間以内であることが望ましい

 

→COVID-19(肺炎)診断のためのPCR検査の検体は、1回目は鼻咽頭スワブ、1回目陰性でまだCOVID-19の可能性が想定される場合は、下気道検体を提案している

 

推奨5:COIVD-19の可能性が臨床的に低いと判断される症状のある患者において、ウイルスRNA検査は1回行うこと、繰り返さないことを提案する(conditional recommendation, low certainty of evidence)。

・臨床的に可能性が低いかどうかは、その地域の疫学と臨床判断に基づいて判断する

 

→気道症状や発熱はあるが、COVID-19の疑いが低い患者のPCR検査は1回でよい

 

推奨6:COVID-19の臨床的疑いが中程度または高度にある症状のある患者において、初回検査が陰性の場合、1回だけ検査を行うのではなく、ウイルスRNA検査を繰り返すことを提案する(conditional recommendation, low certainty of evidence)。

・中等度または高度の臨床的疑いとは、入院settingの状況で適応され、COVID-19に一致する症状と徴候の重症度・数・タイミングに基づいて判断される

・2回目の検査(NAAT)は、初回検査から24-48時間後に行う

・2回目の検査の場合、別の検体、下気道感染症の症状・徴候がある患者の場合は、下気道検体を採取することを考慮すべきである

 

→COVID-19を疑う場合、初回PCRが陰性の場合、2回目を24-48時間後に行う

 

推奨7:COVID-19が疑われる症状のある患者において、迅速検査(検査時間1時間以下)と標準的なRNA検査、どちらに賛成・反対か、について推奨を出さない(knowledge gap)。

 

推奨8:COVID-19の患者に曝露がある、または、曝露疑いがある無症候性の患者に対して、SARS-CoV-2 RNA検査を行うことを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・既知の曝露=NAATでの確定診断されたCOVID-19患者と直接接触がある

・曝露の疑い=COVID-19のoutbreakが起こった集団環境(例:長期療養施設、矯正施設、クルーズ船、工場など)で働いている、または、居住していること

・この推奨は、曝露者が適切なPPEを着用していなかったことが前提となっている

・無症状の患者を検査するかどうかは、検査資源のavailabilityに依存する

 

→濃厚曝露者(疑いを含む、ただし適切にPPEを使用していなかった状況に限定)は、症状がなくてもPCRを行う

 

推奨9:COVID-19の有病率が低い地域(2%未満)に入院しているCOVID-19との接触がない無症候性の患者を対象としたSARS-CoV-2 RNA検査を行わないことを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・無症候性=COVID-19を示唆する症状・徴候がない

・この推奨は、免疫不全者、時間的制約のある大手術やエアロゾル発生処置を受ける患者には適用しない

 

→COVID-19が有病率2%未満の地域で、明らかな曝露歴がなければ、入院の際にPCR検査を行う必要はない(ただし、免疫不全者、大手術・エアロゾル発生手技を行う患者は除く)

 

推奨10:COVID-19の有病率が高い地域(有病率10%以上=ホットスポット)に入院しているCOVID-19との接触がない無症候性の患者を対象に、SARS-CoV-2 RNA検査を行うことを推奨する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・無症候性患者(有病率が2-9%の場合を含む)を検査するかどうかの決定は、検査資源のavailabilityに依存する。

 

→有病率が10%を超える地域では、COVID-19の症状と曝露歴がない患者が入院した場合、PCR検査を行うことを推奨する

 

推奨11:COVID-19患者への曝露にかかわらず、入院する免疫不全の無症候性患者を対象にSARS-CoV-2 RNA検査を行うことを推奨する(strong recommendation, very low certainty of evidence)。

・この推奨では、免疫抑制的処置(immunosuppressive procedures)を、細胞傷害性化学療法、固形臓器または幹細胞移植、長時間作用型生物学的製剤、細胞性免疫療法、または高用量コルチコステロイドと定義している。

 

無症状の免疫不全者が入院する場合、曝露歴がなくてもPCR検査を施行する

 

推奨12:COVID-19患者への曝露歴にかかわらず、免疫抑制療法の前に、無症状の患者を対象にSARS-CoV-2 RNA検査を行うことを推奨する(strong recommendation, very low certainty of evidence)。

・検査は、理想的には予定されている治療にできるだけ近づけて行うべきである(例:48~72時間以内)

 

免疫抑制療法前の無症状の患者に対して、曝露歴がなくてもPCR検査を行う

 

推奨13:時間的制約のある大手術を受けるCOVID-19患者への既知の曝露がない無症候性の患者にSARS-COV-2 RNA検査を行うことを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・time-sensitive surgery(時間的制約のある手術):3ヶ月以内に行う必要がある医学的に必要な手術と定義した

・検査は、理想的には、予定されている手術にできるだけ近づけて行うべきである(例:48~72時間以内)

予後不良の可能性があるため、SARS-CoV-2陽性の患者において、緊急手術以外の手術を延期することを検討すべきである

・これらの処置のエアロゾル発生する部分でのPPEの使用の判断は、PPEのavailabilityが限られている場合、検査結果に依存することがある(例:陰性の場合、N95を使用しない)。しかし、検査結果が偽陰性となるリスクがあるため、上気道と密接に接触・露出する人(例:麻酔担当者、耳鼻咽喉科手術)は注意を払う必要がある

・この推奨は、患者が長期にわたって複数の手術を受ける必要がある場合の再検査の必要性については対応していない

 

大手術前の無症状の患者に対して、曝露歴がなくてもPCR検査を行う

 

推奨14:PPEが使用可能な場合に、time-sensitiveエアロゾル発生手技(例:気管支鏡検査)を受けるCOVID-19患者への曝露歴が明らかでない無症候性の患者を対象に、SARS-CoV-2 RNA検査を行わないことを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・time-sensitive手技:3ヶ月以内に行う必要がある医学的に必要な手技と定義した

エアロゾル発生手技:気道吸引、喀痰誘発、胸骨圧迫、気管挿管、NIV、気管支鏡、用手換気

 

エアロゾル発生手技を受ける無症状の曝露歴のない患者に対して、PCR検査は行わない

 

推奨15:使用可能なPPEが限られており、検査が可能な場合、COVID-19への曝露が明らかでない無症候性の患者が、time-sensitiveエアロゾル発生手技(例:気管支鏡検査)を受ける場合にSARS-CoV-2 RNA検査を行うことを提案する(conditional recommendation, very low certainty of evidence)。

・検査は、予定されている手技にできるだけ近い時期(例:48~72時間以内)に実施されるべきである

・PPEのavailabilityが限られているため、PPEについての決定は検査結果に依存する(PCR陰性なら、COVID-19はないものとして対応する)。しかし、検査結果が偽陰性となるリスクがあるため、患者の気道と密接に接触・曝露する場合は、注意が必要である

・この推奨は、患者が長期にわたって複数の処置を受ける必要がある場合の再検査の必要性には対応していない

 

→PPEが供給不足の場合、エアロゾル発生手技を受ける無症状の曝露歴のない患者に対して、PCR検査を行う(陰性の場合、N95は不要かもしれない)