General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

SARS-CoV-2の安定性(viabilityはいつまで?)とエアロゾルについて

SARS-CoV-2の安定性(viabilityはいつまで?)とエアロゾルについて

 

まとめ

SARS-CoV-2の環境表面でのviabilityの期間は、紙・ティッシュペーパー・ダンボールは24-48時間以内、木・布は2日以内、ガラスは4日以内、ステンレス・プラスティックは3-7日以内。理由は不明だが、サージカルマスクから14日目に検出された報告がある。

SARS-CoV-2 PCR陽性でも、ウイルス培養は陰性である可能性がある。

エアロゾル感染の決まった定義は存在しない。飛沫感染+飛沫核感染(空気感染)を包括している概念と考えてよいと思われる。会話で発生する粒子は、飛沫(5μm以上)である。

・実験室の環境におけるエアゾロル中のウイルスは、3時間以上viabilityを保持するが、半減期は1.1-1.2時間である(この実験では、5μm未満の飛沫核)。

・空気感染隔離室(陰圧室)において、患者から3-4m離れたところまでエアロゾルは到達しうる(ただしこれを示した研究は、PCRのみ施行しており、viabilityは検討していない)。

エアロゾルの確立した定義はない。また、エアロゾル感染=空気感染ではない。エアロゾル感染は、飛沫感染+空気感染(飛沫核感染)を包括した用語である。ただし、研究によって、エアロゾル=飛沫核、と定義しているものもある。

 

文献

1. Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions. Lancet Microbe 2020 Published Online April 2, 2020.

https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3

・環境中におけるSARS-CoV-2の安定性を検討した研究

・4℃の環境で安定(14日以上感染性が確認された)

・70℃の環境では5分以内に不活化される

・ウイルス培養が陽性となる期間

紙、ティッシュペーパー:3時間以内

木・布:2日以内

ガラス、紙幣:4日以内

ステンレス、プラスティック、サージカルマスク内層:7日以内

サージカルマスク外層:14日以上

・smooth surfaceでは、ウイルス量が減少すると半減期が延長する現象がみられた

・ウイルス培養陰性の検体でPCR陽性例が存在した

 

2.Droplets and Aerosols in the Transmission of SARS-CoV-2. N Engl J Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1056/NEJMc2009324.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2009324

・会話や呼吸によって、飛沫やエアロゾルが生成され、感染伝播の原因となりうる

 

3. Visualizing Speech-Generated Oral Fluid Droplets with Laser Light Scattering. N Engl J Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1056/NEJMc2007800.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2007800

・会話による飛沫(一般的な飛沫核の定義:直径5μm以上)を可視化した報告

・「stay healthy」によって、20-500μmの飛沫が多数発生

・会話の音量が大きいほど、flashの数が増加した

・ある研究では、会話で放出される飛沫は、咳やくしゃみの時よりも小さかった

・いくつかの研究では、会話で放出される飛沫は、咳の場合と、数は同等であった

・この報告は、飛沫核・エアロゾルについては検討していない

 

4. Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973

SARS-CoV-2のエアロゾル(この論文では5μm未満:飛沫核)内・環境表面における安定性を評価した研究

・コリゾンネブライザー(ジェットネブライザーの1種)でSARS-CoV-2を含むエアロゾルを生成して、ドラム(Goldberg drum)にそれを入れて、viabilityを測定したところ、3時間の時点でviabilityが確認された

・プラスティックとステンレス上では、それぞれ72時間・48時間まで安定性が確認された(プラスティックでは96時間時点、ステンレスでは72時間時点で、viabilityは消失)

・銅上では、4時間後にviabilityは消失していた(表をみると8時間以内)

ダンボール上では、24時間以内にviabilityは消失していた(表をみると48時間以内)

半減期エアロゾル内1.1-1.2時間、ステンレス上5.6時間、プラスティック6.8時間

 

5. Aerodynamic analysis of SARS-CoV-2 in two Wuhan hospitals. Nature. 2020 Apr 27. doi: 10.1038/s41586-020-2271-3.

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2271-3

・COIVD-19がoutbreakしていた中国武漢の2つの病院で、病院内のエアロゾル(長径5μm以下という定義は採用していない)のSARS-CoV- 2 RNAを測定・検討した報告

・隔離病棟・人工呼吸器患者の病室の空気中のRNA濃度は非常に低かった(高頻度の換気によるものと考えられる)が、床(患者ベッドから約3m離れていたエリアまで)はウイルスで汚染されていた

・PPEを着脱する部屋(粒子の大きさは0.25-0.5μmと小さい傾向にあり、PPEを脱ぐ際に小さなエアロゾルが発生するのかもしれない)や医療スタッフの更衣室の空気中で、ウイルスRNAが検出された

・患者が使用するトイレエリアでRNA濃度が高かったことから、換気の悪い狭い区画は感染のリスクが高い可能性がある

・空気中のRNAは、ほとんどのpublic areaで検出されなかった(混雑している2箇所で検出)

・一部の医療スタッフエリアで、エアロゾルサイズの領域にウイルスRNAが検出されたが、厳格な除菌によって検出不可能なレベルまでウイルス量は低下した

・感染性についての検討はしていない

 

6. Aerosol and Surface Distribution of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Hospital Wards, Wuhan, China, 2020. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885.

https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/7/20-0885_article

・中国武漢のCOVID-19病院の空気と環境表面(スワブを使用)をサンプルとして、SARS-CoV-2 PCRを施行した。ICU・一般病棟ともに陰圧室という記載はないが、isolation wardかつ各部屋のairflowが決まっているため、おそらく陰圧室と思われる。この研究では、ウイルスのviabilityは検討していない。

・ほぼすべてのPCR陽性はレッドゾーンに集中していた。

ICUは、一般病棟より陽性率が高かった(43.5% vs 7.9%)。ICUPCR陽性だった場所は、床(70%で陽性)・コンピューターマウス・ゴミ箱・ベッドの手すり・患者マスク・排気口フィルター。PPEでは、フェイスシールドの汚染はなかったが、ガウンの袖口・手袋で、PCR陽性。医療スタッフの靴の裏のPCRも陽性だった。semicontaminated areaであるPPE着脱する部屋の床で少量のウイルスが検出された。特にICUのレッドゾーンの床と医療者の靴の裏のPCR陽性率は高かった。

・一般病棟でPCR陽性となったのは、床(8.3%で陽性)・ドアノブ・ベッドの手すり・患者マスク・コンピューターマウス/キーボードなどだったが、ICUと比較してウイルス量は少なかった。PPEや医療従事者の靴の裏の汚染はなかった。廊下の床の汚染はなかった。Semicontaminated areaの汚染もなかった。

・グリーンゾーンの床はPCR陰性だった。

ICUの空気サンプルの35%と一般病棟の空気サンプルの12.5%で、PCR陽性がだった。空気排出口スワブサンプルも陽性だった(ICU:66.7%、一般病棟:8.3%)。空気採取場所によってPCR陽性率が異なっていた(患者周囲、排気口で陽性率が高かった)。ICUにおいて、SARS-CoV-2が含まれるエアロゾルは、患者から4mまで到達する可能性がある(患者の頭から4m離れた排気口とは別の場所で、8サンプル中1サンプルでPCRが弱陽性となった)。一般病棟では、患者の頭から2.5m離れたairflowの上流(給気口)の11サンプル中2サンプルでPCR陽性だった。red zoneの廊下の空気は全例PCR陰性だった。

エアロゾル感染を起こす最小のウイルス量が不明のため、エアロゾル伝播を起こしうる距離は不明である(4m以内である可能性が高い)。靴の底は触らない(普段から触らない)、床を触らない(普段から触らない)、靴を触ったら手指衛生、が重要である。

 

 

注意:「エアロゾル」について

・気体中に微粒子が多数浮遊した状態(ほこり、花粉、霧などが含まれる)

・その微粒子の大きさは、数nmから100μm程度まで様々である

・「エアゾロル感染」とは、飛沫感染と飛沫核感染を含有していることが多い

・「エアロゾル感染」の世界的に統一された定義は存在しない

・「エアロゾル感染」は、厳密には、飛沫核感染(空気感染)とは異なる

・ただし、「エアロゾル」=飛沫核(直径5μm未満)と定義している研究もある