General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

新しいバンコマイシンのTDMガイドラインの概要(public comment募集前のdraft)

先日先輩に教えていただいたバンコマイシンの新しいTDMガイドラインのドラフトの推奨部分を、意訳して、まとめてみました。

 

まず重要な点です

・目標とする指標は、成人・小児ともにAUC/MIC 400-600(基本的にMIC=1)

・この目標値は、年齢、腎機能、肥満の有無に関係なく推奨される

・この値を目標にする理由は、臨床効果を最も高め、AKIを最小限に抑えるため

・Bayesian法を用いてバンコマイシンの投与設計・AUCの推定を行う

・最初の血中濃度測定は、ピーク濃度とトラフ濃度を、治療開始24-48時間以内に行う

・トラフ濃度のみの測定でも、AUCの推定は可能である(しかし精度は低下する)

・トラフ濃度は、PK/PD指標として使用しない

・loading doseは、25-35 mg/kgを考慮する

・実体重で投与量の計算を行う

・週1回以上の濃度・AUCのmonitoringを行う

・重症患者では、間欠投与より持続投与がよい可能性がある(目標濃度20-25 mg/L)

・肥満患者では過剰投与とAKIに注意する(loading:20-25 mg/kgかつ3000mg以下)

・維持透析患者では、loading 25 mg/kg、その後透析後に7.5-10 mg/kgを投与

・小児・新生児でも、成人と同様のparameter(AUC/MIC)を使用するが、一般的な投与法(1回投与量、投与間隔)は年齢によって異なる

 

 

以下推奨です。

1. 重症MRSA感染症において、臨床効果と安全性の観点から、Bayesian法に基づいてバンコマイシンの投与設計を行い、AUC/MIC(微量液体希釈法)400-600(MIC=1と仮定する)を目標とする。

※trough濃度は、AUC/MICの代替指標として使用されてきたが、もともとAUC/MIC≧400が最も効果が期待できるPK/PD parameterであり、かつ、AUCによって投与量を調整することによって、AKIが減少することが示された。

 

2. 効果を最大に高めてAKIのリスクを最小とするため、バンコマイシンの最適な投与量決定とmonitoringには、AUCを用いる。AUCの測定には、2回の血中測定(near steady-state:ある1回の投与後のpost-distributional Cmax<投与終了後1-2時間>とtrough濃度)を行う。

※tough濃度のみでもAUCの推定は可能であるが、2点で濃度測定したほうが正確。
血中濃度測定は、定常状態となる前に計測してよい(治療開始後最初の24-48時間)。

 

3. AUCのmonitoringには、Bayesian software programを使用し、血中濃度を1または2点で測定する。少なくともtrough濃度を測定するが、2点の濃度測定(点滴終了後まもなく、次のdoseの投与前)のほうが望ましい。

 

4. バンコマイシンの目標AUC/MIC(治療開始3日目まではMICは不明であることがほとんどであるので、その施設でのもっとも多いMICで代用)は、早期(治療開始24-48時間)に達成すべきである。従来の方法の場合のように、定常状態での濃度が必要ないため、Bayesian-derived AUC monitoringが望ましい。

 

5. トラフ濃度15-20 mg/Lのみを目標とすることは、重症MRSA感染症の患者において推奨されない。

 

6. バンコマイシンのmonitoringは、MRSA感染症に対してaggressive dosingで治療している患者、すべての腎毒性の高リスク群(同時に腎毒性のある薬剤を投与されている重症患者)、腎機能が変動している患者、3-5日以上の治療を行う患者、に推奨される。循環動態が安定している患者では、週1回のmonitoringが推奨されるが、不安定な患者ではより頻回のmonitoringが必要である。

 

7. 各サーベイランスデータでは、ほとんどのMRSAバンコマイシンMICは1 mg/L以下であるため、経験的治療において、MRSAバンコマイシンMICは1 mg/Lと仮定できる。微量液体希釈法でMIC>1mg/Lの場合、通常の投与量ではAUC/MIC≧400は達成困難であり、バンコマイシンを増量した場合、腎毒性の懸念がある。ただし、MIC値の精度は、検査方法によって異なり、その点について認識しておくことは重要である。

 

8. バンコマイシンの持続投与の薬物動態は、この方法が通常の間欠投与の代替方法となること、望ましい濃度(例えば、定常状態の濃度20-25 mg/L)を達成するのが容易(かつ、より早期に達成可能)であることを示唆している。血中濃度測定のタイミング(定常状態であればいつでもよい、またpeakとtroughの2点採血が不要)や投与量の調整(投与速度を遅くするだけでよい)が容易であるため(特に重症患者の管理においては望ましい特徴である)、より簡単に血中濃度の管理が可能かもしれない。AUCの計算も容易である。

※多くの研究では、Loading dose 15-20mg/kg→30-40mg/kg/日(その後適宜調整して60mg/kgまで増量検討)で、目標steady-state濃度20-25mg/L→単純計算で、AUC/MIC(MIC=1)=480-600となる。ただし、持続投与におけるPK/PD targetは確立していない。AUC/MIC≧400が臨床効果と関連していることを示したすべての研究は、バンコマイシンを間欠投与している。

 

9. バンコマイシンの持続投与(目標とする定常状態の濃度:15-25 mg/L)は、間欠投与(目標トラフ濃度10-20 mg/L)と比較して、腎毒性の出現は、少ない、または、同等である。

 

10. バンコマイシンの持続投与は、その他の薬剤とは別routeで投与する必要がある。

※すべてのβラクタム系抗菌薬と同じrouteからの投与は行ってはいけない。

 

11. 早期にバンコマイシンの濃度を目標値まで上げるために、重症MRSA感染症の患者において、間欠投与または持続投与どちらでも、loading dose 25-35 mg/kgを考慮できる。

 

12. loading doseは、実体重をもとに計算し、3000mgを越えないようにすべきである。

 

13. 肥満患者のバンコマイシンのloading doseは、20-25 mg/kgとして、3000mgを越えないようにすることを考慮する。Maintenance doseは計算可能(population pharmacokinetic estimate of vancomycin clearanceと標的AUCから)であり、ほとんどの例で4500mg/日以下となる。AUCの推定のために、peak濃度とtrough濃度の測定が推奨される。

※肥満の定義:BMI≧30 kg/m2
※loading doseは、分布容積で決定される。体重が増加するとバンコマイシンの分布容積は増大するため、投与量を増やすが、体重に比例して分布容積が増加するわけではない。
※経験的なmaintenance doseは、clearanceによって決定される。

 

14. 血液透析患者のloading doseは、透析後に投与する場合25mg/kg、透析中に投与する場合30-35 mg/kg(dialyzer permeabilityによって調節)。週3回投与の透析の場合、透析後に7.5mg-10mg/kg(dialyzer permeabilityによって調節)をmaintenance doseとして投与する。

※透析中、または透析後1-2時間以内に血中濃度は測定すべきでない。
バンコマイシンの透析中に投与すると約20-40%が透析によって除去される。
※透析前濃度/MIC>18.6がoutcomeを改善した、という報告がある。
※AUC/MICと治療効果の関連は、透析患者では検討されていない。
※現時点では、AUC/MIC 400-600を目標にする。

 

15. 血中濃度monitoringは週1回以上行うべきであり、その値をみて投与量を調整する。

 

16. hybrid dialysis therapy(PIRRT・SLED)の患者でのloading doseは、20-25 kg/kg(実体重)を投与する。初回投与は、透析終了を待つ必要はない。Maintenance doseは透析後または透析の最後の60-90分の間に、15 mg/kg投与する。頻回の血中濃度測定が必要である。

 

17. CRRT中の患者では、loading dose 20-25 mg/kg(実体重)を使用する。Maintenance doseは、血中濃度monitoringをしながら調整する。最初は12時間おきに投与開始すると、trough濃度15-20 mg/L、AUC/MIC 400-600の達成につながることが示唆されている。持続投与による治療が増えてきており、特にhigh CRRT ultrafiltrate/dialysate flow rateの場合に考慮される(本文中にもmaintenance doseの量の記載はなかった)。

 

18. 小児におけるdataはほとんどないが、成人と同様に目標AUCは400-600する。初回投与量は、3か月以上12歳未満では、60-80 mg/kg/day(6時間おきに分割)、12歳以上では、60-70 mg/kg/day(6時間おきに分割)とする。Bayesian法によるAUCの測定とそれによる投与量調節が最適な可能性がある。

※小児のMRSA菌血症の報告によるとtrough濃度15 mg/L以上は、治療成績の改善に関連しなかったが、AKIの増加に関連した。別の報告では、AUC/MIC>400も治療成績の改善と関連しなかった。
※小児のMRSA感染症に対する現在のバンコマイシン45-60 mg/kg/dによる治療で、治療失敗が多いという報告はない。
※小児においても、トラフ濃度15-20 mg/L以上、AUC 800以上はAKIの増加と関連する。

 

19. Bayesian法で計算したAUCによってバンコマイシンのmonitoringを行うことを、すべての年齢の小児において推奨する。血中濃度と腎機能を全例でmonitoringする。TDMは、バンコマイシン開始24-48時間以内に開始する(成人と同様)。その後の、具体的な濃度測定の頻度については記載がない(適宜行う、ということでよいと思われる。例として、AKIの小児では、腎機能が急速に改善する可能性があるため、5日以内に再度投与量調節が必要かもしれない、という記載がある)。

 

20. AKI発症を減らすため、AUC 800以下、trough濃度15 mg/L以下にすべきである。バンコマイシンの投与量は、100 mg/kg/dayを超えるべきではない。

 

21. バンコマイシンのloading doseについての推奨のもとになるdataは十分ではない。成人のloading doseの考え方を考慮してもよいかもしれない。

 

22. 肥満の小児は、投与量がmg/kg(実体重)で計算された場合、正常体重の小児よりバンコマイシン曝露が増えることは後ろ向き研究で示されているが、この違いが、異なるmg/kgベースの投与量を推奨するほどの、臨床的な重要性があるかはわかっていない。正常体重の小児と同様に、12歳未満の肥満の小児は、12歳以上の肥満の小児より高いmg/kg doseが必要かもしれない。

 

23. 肥満の小児において、血中濃度monitoringは、効果とAKIのリスクを評価するために、特に重要である。TDMは、肥満でない小児と同様の方法で行うべきである。

 

24. 肥満の小児において、loading doseは、20 mg/kg(実体重)が必要かもしれない。

 

25. 新生児におけるAUC 400を達成する投与量は、15-20 mg/kg 8-12時間おき(post-menstrual ageと血清Cr値などで調整)。在胎期間・週齢に関わらず、すべての新生児のMRSA感染症の治療成功に必要と考えられるバンコマイシン濃度を達成するため、AUCをもとにdoseの調整とmonitoringをする(Bayesian法の使用が好ましい)。新生児のMRCNS感染症では、より低いAUC/MICを目標することは理にかなっているかもしれない。治療monitoringについては、小児全般の推奨を、新生児にも適応すべきである。

 

 

 

Therapeutic monitoring of vancomycin: A revised consensus guideline and review of the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, the Pediatric Infectious Diseases Society and the Society of Infectious Diseases Pharmacists(public comments募集時のdraft)

https://www.ashp.org/-/media/assets/policy-guidelines/docs/draft-guidelines/draft-guidelines-ASHP-IDSA-PIDS-SIDP-therapeutic-vancomycin.ashx