General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

Enterobacter肺炎に対するPIPC/TAZは、標的治療の選択肢のひとつとなるかもしれない

【導入】

Enterobacter spp.は院内肺炎の主要な原因菌のひとつである。カルバペネム系抗菌薬が第1選択薬であるが、薬剤耐性菌の増加に伴いカルバペネム温存が求められている。セフェピムは、カルバペネムと同等の効果が示されてきた。ピペラシリン/タゾバクタムは、日常的にはよくEnterobacter spp.に対して使用されているが、その効果を示した臨床dataは少ない。Enterobacter属、または、AmpC産生菌(Enterobacter属だけでなく、Serratia属なども含む)による血流感染症や尿路感染症で効果を検討した少数の観察研究では、カルバペネム系抗菌薬と同等であった。Enterobacter spp.肺炎に対するピペラシリン/タゾバクタムの効果を示した報告はないことから、今回肺炎への治療効果について検討した。

 

【方法】

単施設、後ろ向きコホート研究、Enterobacter肺炎に対する、ピペラシリン/タゾバクタムと、セフェピムまたはエルタペネムの効果を比較した。「標的治療」としての使用を対象としており、72時間以上これらの薬剤を使用した患者に限定した。ESBL産生株やブドウ糖非発酵菌の共感染例は除外した。Primary endpointは、気道検体を採取した7日後のclinical cure(WBCが2000以上低下、体温≦37.8℃、抜管or人工呼吸器設定が改善)。Secondary outcomeは、肺炎の再燃、耐性菌出現、人工呼吸器使用期間、感染に関連した入院期間、病院内死亡率。PIPC/TAZは1回4.5g 8時間おき、1回4時間点滴、セフェピムは1回2g 8時間おき、1回4時間点滴で投与された。

 

【結果】

114名のEnterobacter肺炎(全例血液培養陰性)を対象とした。PIPC/TAZ群59名、CFPM/ertapenem群55名(CFPM 26名、ertapenem 29名)。患者背景は、CFPM/ertapenem群でICU入室者が多かったこと、PIPC/TAZ群で適切な抗菌薬が投与されるまでの時間が短かった(24時間以内に適切な抗菌薬治療を投与された割合が、96.6% vs 72.7%)こと以外は、両群とも同等だった。Enterobacter属は、63.2%がE. cloacae、次にE. aerogenesが約33%で、この2菌種でほとんどを占めていた。両群とも治療期間の中央値は7日間で、差は認めなかった。Clinical cure率は、PIPC/TAZ群76.3%、CFPM/ertapenem群87.3%で、統計学的な有意差はなし。Secondary outcomeも同等であった。人工呼吸器使用期間の中央値(3日 vs 7日)、感染症に関連した入院期間(9日 vs 18日)は、CFPM/ertapenem群で長い傾向がみられた。30日以内に再発した肺炎において、6例中5例でPIPC/TAZ耐性が確認されており、CFPMは1例、ertamepenは0例であった。

 

【解釈】

Enterobacter spp.による院内肺炎の治療で、PIPC/TAZによる標的治療は、CFPMまたはertamepemと比較して、予後を悪化させない可能性が高い。ただし、この研究の2群間で、適切な初期治療が開始されるまでの期間が有意にPIPC/TAZ群で早く、ICU入室者も少なかったことは、PIPC/TAZ群に有利に働く可能性が想定される。また、後ろ向き観察研究であり、検討されていない因子による影響もあるかもしれない。つまり、本当にPIPC/TAZが、CFPM/ertapenemと比較して同等かどうかは確定的なことはわからない。さらに、初期治療で使用した場合の耐性菌の増加が懸念される。再発した場合は、PIPC/TAZは避けた方がよい可能性が高い。

 

【結論】

Enterobacter肺炎に対するPIPC/TAZは、標的治療の選択肢のひとつとなるが、第1選択薬とまでは言えない。PIPC/TAZで治療開始した場合、培養結果が報告された時点で経過がよければ、そのまま継続でよいと考えるが、CFPMで治療している場合、培養結果を見て、あえてPIPC/TAZに変更する、ということは不要と考える。もし肺炎を繰り返す場合は、2回目以降は、PIPC/TAZではない抗菌薬を使用したほうが安全かもしれない。

 

 

Clinical outcomes following treatment of Enterobacter species pneumonia with piperacillin/tazobactam compared to cefepime or ertapenem
Int J Antimicrob Agents. 2019 Jul 15.
doi:10.1016/j.ijantimicag.2019.07.008
PMID: 31319191

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31319191