General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

日本の小児に対する抗菌薬処方量の推移 2013-2016

【小児に対する抗菌薬は、多くがウイルスによる急性気道感染症に処方されている。また処方されている薬剤の大半を第3世代セファロスポリンとマクロライドが占めている】

 

【方法】

national health claims databaseを使用して、後ろ向きに15歳以下の小児に対する内服抗菌薬処方について解析した。抗菌薬処方量の比較は、DOT per visitorを使用した。

 

【結果】

2013年から2016年にかけて、経口抗菌薬処方は、3.7%減少した。上気道感染症の31.7%、下気道感染症の36.9%で抗菌薬が処方された。抗菌薬処方量の観点からみると、抗菌薬の54.6%は上気道感染症、26.2%は下気道感染症を対象に処方されていた。使用された抗菌薬の種類は、第3世代セファロスポリンとマクロライドがほとんどを占めていた。

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【解釈】 

上気道感染症扁桃炎を含む、中耳炎は除く)は、A群β溶血性連鎖球菌性咽頭炎や細菌性鼻副鼻腔炎を含んでいるため、すべての抗菌薬が不適正使用されているわけではないが、31.7%というのは、過剰な投与がされている可能性が高いと思われる。

 

下気道感染症は、急性気管支炎と急性肺炎を含んでいる。多くの場合、前者は抗菌薬不要、後者は抗菌薬が必要な病態であるため、下気道感染症の36.9%に抗菌薬が使用されていることが、不適切な使用が多いことを示しているのかどうかは、判定できない。おそらく急性気管支炎のほうが多いと予想されること、第3世代セファロスポリンでは急性肺炎十分治療できない可能性があるがたくさん使用されていること、マクロライドは肺炎球菌性肺炎には効果が期待できないこと、などを踏まえると、必要性の低い抗菌薬が投与された可能性は高いと予想される。

 

また、あくまでレセプト病名のため、真の診断名をどこまで正確に反映しているかははっきりしない。ただし、年単位で診断精度が向上または低下することは考えにくいため、トレンドとしてみるのには、あまり支障はないと思われる。

 

抗菌薬の投与が不要な急性気道感染症に対して抗菌薬が処方されている実態が明らかになった。抗菌薬の適応がある病態を周知していく必要がある。また、小児の抗菌薬が必要な急性気道感染症は、ほとんどの場合アモキシシリンまたはアモキシシリン/クラブラン酸で治療可能であるが、実際には第3世代セファロスポリンとマクロライドが大半を占めている。抗菌薬選択の適正化の余地がかなり残されている。

 

【結論】

急性気道感染症における抗菌薬の適応抗菌薬を必要とする急性気道感染症における抗菌薬選択、の2つの観点から、抗菌薬適正使用に関する啓発活動を行っていくことが重要である。

 

 

Nationwide survey of indications for oral antimicrobial prescription for pediatric patients from 2013 to 2016 in Japan
J Infect Chemother. 2019 Jun 21.
doi: 10.1016/j.jiac.2019.03.004
PMID: 31235350

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31235350%5Buid%5D