General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

ESBL産生腸内細菌科細菌による感染症の治療(CMIのNarrative review)

【ESBL産生腸内細菌科細菌による感染症の治療についての総説】

Current options for the treatment of infections due to extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in different groups of patients(Clin Microbiol Infect. 2019;25(8):932-942)

 

1. 導入

・ESBL産生菌による感染症に対してもっとも有効な抗菌薬はカルバペネム系抗菌薬

・ESBL産生菌の増加によって、カルバペネム系抗菌薬の使用量が増加している

・一方、カルバペネム耐性菌の増加も問題であり、その他の選択肢の検討が必要

・ESBL産生菌による侵襲性感染症は、感受性菌による感染症より予後が悪い

・おそらく、適切な抗菌薬投与が遅れることが原因である

・ESBL産生菌による感染症の死亡率を予測する因子として、感染focusと重症度が重要

※この総説では、ESBL産生菌=ESBL産生腸内細菌科細菌(主にE. coliとKlebsiella属)

 

2. ESBL産生菌による感染症を3つのグループに分類(専門家の意見)

Group 1:重症感染症、非重症感染症だがhigh-risk感染源、著明な免疫不全

 重症=Pitt score≧4、APACHE II score>10、ICU入室、septic shock

 High risk=high-inoculum infection(肺炎、IE、不十分なドレナージの深部感染)

 著明な免疫不全=好中球減少、白血病、リンパ腫、HIV CD4<200、固形臓器移植後

         造血幹細胞移植後、ステロイド(PSL 15mg/日以上を2週間以上)

Group 2:非重症感染症でintermediate-risk感染源

 Intermediate risk=highでもlow-riskでもないもの

 例:CRBSI(CV抜去)、ドレナージできている腹腔内感染症・胆管炎)

Group 3:非重症のlow-risk感染源(尿路感染症

 Low risk=閉塞のない(閉塞の解除された)尿路感染症

※菌血症の有無は、重症度の判定の際に考慮していない

 

3. 現在の治療の選択肢

(1)MEPM(IPM/CS、DRPM

・観察研究のメタ解析では、フルオロキノロンやアミノグリコシドよりも経験的治療または標的治療において、カルバペネム系抗菌薬の治療成績(死亡率、改善率)がよい

・MERINO研究は、ESBL産生菌による菌血症の標的治療の効果を検討したものであるが、MEPMはPIPC/TAZより死亡率が低かった

・結論:Group 1(重症 or 死亡リスク高い感染巣 or 免疫不全)で、第1選択となる

 

(2)エルタペネム

・Group 2-3に該当するESBL産生菌菌血症へ治療効果は複数報告されている

・経験的治療、標的治療どちらも検討されている

・しかしbiasは大きい(後ろ向きコホート研究)

・septic shockでは、死亡率が高くなる可能性が指摘されている

・尿路感染症のOPATで有用と思われる

 

(3)BLBLI(≒PIPC/TAZ

・典型的には、ESBLはβラクタマーゼ阻害薬で阻害される

・AmpCやOXA-1が同時に存在する場合は、耐性となりうる

・PIPC/TAZは、in vitroでhigh inoculumへの曝露によって活性が低下する

・AMPC/CVAにおけるinoculum effectは報告されていない

・PIPC/TAZがESBL産生菌感染症に使用可能かどうか、controversialである

・MERINO trialでは、血流感染症に対してMEPM群より有意に死亡率が高かった

・カルバペネムとPIPC/TAZの効果が同等であった複数の観察研究のメタ解析がある

・血液悪性腫瘍患者のESBL産生菌によるFN/菌血症の経験的治療で、PIPC/TAZはMEPMと比較して死亡率は同等であった(ただし、ほとんどの症例は、感受性判明した時点で、MEPMに変更している)→ESBL産生菌の可能性を考えて、なんでもかんでもMEPMで治療開始、という必要はない。

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Antimicrob Agents Chemother. 2019 Jan 29;63(2).  doi: 10.1128/AAC.01813-18、PMID: 30509935

 

・Group 1の患者に対して、PIPC/TAZよりMEPMを優先することは理に適っている

・MERINO trialで、PIPC/TAZ群の尿路感染症の死亡率は低く、Charlson score<2の場合、死亡率はMEPM群と同等であった(2.9% vs 2.6%)。そのため、軽症例では使用を考慮してもよいかもしれない。

・投与量も重要で、4.5g 6時間おき、または、4.5g 8時間おき(4時間点滴)がよい。

・著者の意見:Group 2-3では、使用を考慮してもよい(ただし、さらなる研究が必要)

 

(4)新しいBLBLI

・ceftazidime-avibactam

 複雑性UTIで、カルバペネムと同等

 OXA-48やKPC産生菌用の抗菌薬のため、ESBL産生菌へ使用しないことを推奨する

・ceftolozane-tazobactam

 複雑性UTIと複雑性腹腔内感染症で、カルバペネムと同等

 あえて第1選択薬として使用する必要はない:耐性緑膿菌のために使用

 

(5)第3-4世代セファロスポリン

・感受性試験で「S」であっても、有効性を示す十分なdataはない

・使用しないほうがよい

 

(6)セファマイシン

・cefoxitin、cefotetan、cefmetazole、flomoxef

・別の耐性機序を持たなければ、ESBL産生菌に対して感性を示す

・cefoxitin治療中にporin lossによる耐性化が起こった症例報告がある

・Group 3には使用可能な可能性が高い

・Group 2に使用するには、さらなるdataが必要

 

(7)Temocillin

・ESBLとAmpCに安定している、緑膿菌への活性はない

・ESBL産生菌に対する有効性を示した観察研究が1つある

・日本では販売されていない

 

(8)アミノグリコシド

・一般論として、アミノグリコシドは、UTI以外では、その他の抗菌薬より効果が劣る

・ESBL産生菌によるUTIに対する経験的治療では、カルバペネムより劣らない

・ESBL産生菌菌血症に対して、BLBLIとの併用で、予後は同等であった報告がある

・ただしすべて観察研究

・アミカシンがもっとも有用な可能性がある

・Group 3の経験的治療の選択肢のひとつとなりうる

・PlazomicinもGroup 3(複雑性尿路感染症のdata)の治療に使用可能かもしれない

 

(9)tigecycline

・ESBLに影響されない

・尿中濃度が低いため、尿路感染症には使用できない

・一般的に、皮膚軟部組織感染症と腹腔内感染症で使用される

・ESBL産生菌による感染症に対して、あえて使用する状況はほぼない

 

(10)ホスホマイシン

・in vitroで多くのESBL産生菌に活性を持つ

・fosfomycin trometamolの内服は、ESBL産生菌による膀胱炎に使用可能

・ESBL産生E coliによる尿路感染症/菌血症に対するホスホマイシンvs MEPMが試験中

 

(11)フルオロキノロン

・ESBL産生菌におけるフルオロキノロン耐性率は高いため、経験的治療では使用不可

・感受性のある細菌に対する標的治療では検討される(カルバペネムと比較して、死亡率が劣らなかった、という観察研究が存在する)

 

(12)ST合剤

・ESBL産生菌がST感受性であった場合の、ST合剤による標的治療のdataはない

 

 

【この総説の著者のまとめ】

※ややPIPC/TAZの評価が高いような気もしますが...(backgroundも影響している?)

・Group 1:メロペネム

・Group 2:メロペネム、エルタペネム、PIPC/TAZ

・Group 3:その他の薬剤

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Current options for the treatment of infections due to extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in different groups of patients
Clin Microbiol Infect. 2019;25(8):932-942
doi:10.1016/j.cmi.2019.03.030
PMID:30986558

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1198743X19301557?via%3Dihub