General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

MALDI-TOF MSの使用によって、入院している肺炎患者において、原因微生物判明と適切な治療がより早期に可能となったが、臨床効果の改善はなかった

【MALDI-TOF MSの使用によって、入院している肺炎患者において、原因微生物判明と適切な治療がより早期に可能となったが、臨床効果の改善はなかった】

 

米国の単施設で行われた後ろ向き観察研究。もともと抗菌薬適正使用支援プログラム(AS program)のある病院で、MALDI-TOF MSの導入前後で、入院中の患者の肺炎に対する最適治療(もっともスペクトラムの狭い抗菌薬)開始までの期間(primary outcome)を比較した(N=360)。原因微生物が判明した肺炎のみを対象とした。市中肺炎・院内肺炎どちらも含まれる。もともと存在するAS programは、full-timeの専任薬剤師がいて、必要な場合に感染症医のサポートを受けることができる、というものであり、MALDI-TOF MS導入後に、新しいAS programの追加はなかった。Secondary outcomeは、7日時点での臨床的治癒率、抗菌薬投与期間、入院期間。

 

結果:ASTによる介入は、導入前84%、導入後93%で、導入後で有意に頻度が高かった。導入後、原因微生物同定までの期間が短縮された(32時間 vs 63時間)。最適治療までの時間は、導入後56時間、導入前73時間で、有意に導入後で短かった。狭域抗菌薬にde-escalationする患者は、導入後増加した(18% vs 9%)。また、初期治療が原因微生物をカバーしていない確率は導入前後で同等(20% vs 19%)であったが、escalationを必要とした患者に対する最適抗菌薬投与までの期間は、導入後で短かった(51時間 vs 73時間)。しかし、臨床的改善率や抗菌薬投与期間・入院期間は同等であった。

 

解釈:後ろ向き観察研究であり、導入前後の患者群が異なる可能性が高い可能性がある。詳細の記載がない、耐性菌率なども変化している可能性がある、原因微生物についての記載もない。MALDI-TOF MSを使用すると、早期に原因微生物が判明し、最適な抗菌薬に変更できる可能性が高い、ことは言えるかもしれない。全症例を対象とした場合とescalationを必要とした症例において、早期の最適抗菌薬治療に有用性であることが示されているが、de-escalationが早く可能となった、という記載はない。De-escalation率は、MALDI導入後で増加しているが、これはASTによる介入が原因かもしれない。De-escalationまでの期間が短縮されることが記載されていないので、おそらく短縮されなかったのだと思われる。これは以下の理由で納得できる。

薬剤感受性試験結果の出るタイミングは、MALDI-TOF MSの施行の有無と関係はない。耐性菌の割合が多い院内肺炎でグラム陰性桿菌が検出され、早期に菌種が同定されたとしても、薬剤感受性試験結果がでるまでは、de-escalationできないことが多い。また市中肺炎の場合でも、インフルエンザ桿菌の場合、薬剤感受性試験結果なしではde-escalationできない。モラキセラの場合は、初期治療が継続されることが多いと思われる。よって、菌名のみによってde-escalationできるのは、肺炎球菌くらいだと思われる。

逆に、escalationは、菌種同定で可能となる。例えば、CTRXで治療開始して、MALDI-TOFMSで緑膿菌が検出された場合は、早期の適切な治療が可能となる。ただし、きちんとした耐性菌リスク評価と喀痰グラム染色を有効活用すれば、そのような失敗はかなり減少すると思われ、MALDI-TOF MSの肺炎における有用性はそれほどないのかもしれない。

 

【結論】

MALDI-TOF MSによって、肺炎患者の原因微生物はこれまでよりも早く判明するようになり、escalation治療が必要な患者において、適切な治療をより早期に行うことが可能となった。ただし、臨床outcomeの改善は示すことができなかった。耐性菌のリスクや喀痰グラム染色を適切に評価することのほうが重要なのかもしれない。

 

 

Clinical impact of matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry for the management of inpatient pneumonia without additional antimicrobial stewardship support
Infect Control Hosp Epidemiol. 2019:1-3
DOI: 10.1017/ice.2019.191
PMID: 31298179

https://www.cambridge.org/core/journals/infection-control-and-hospital-epidemiology/article/clinical-impact-of-matrixassisted-laser-desorption-ionization-timeofflight-mass-spectrometry-for-the-management-of-inpatient-pneumonia-without-additional-antimicrobial-stewardship-support/20237DA4A2216A66CA0DA5126757A546