General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

市中発症の肺炎に対する緑膿菌/MRSAのカバーは、予後悪化と関連する可能性がある

【市中発症の肺炎に対する緑膿菌/MRSAのカバーは、予後悪化と関連する可能性がある】

 

米国の4つ救急外来から入院となった市中肺炎(厳密には「市中発症の肺炎」で、healthcare-associated pneumoniaを含む)の1995名の18歳以上の患者を対象とした後ろ向き観察研究。30日死亡率、入院期間、コスト、CDI発症に対する広域抗菌薬の使用を調査した。免疫不全者(HIV、活動性の固形腫瘍・血液悪性腫瘍)は除外された。すべての抗菌薬は、救急部での受付から12時間以内に投与された。広域抗菌薬の定義は、MRSAまたは緑膿菌をカバーする抗菌薬で、フルオロキノロンを除いたもの。薬剤耐性菌の定義は、標準的な市中肺炎の治療薬(CTRX+AZM、LVFX)に対して耐性のもの(緑膿菌、ESBL産生菌、MRSAなど)。

 

結果:39.7%が広域抗菌薬を使用したが、薬剤耐性菌は3%でしか検出されなかった(ただし原因微生物が判明したのは全体のわずか14.2%)。広域抗菌薬群では、HCAP(36.4% vs 7.4%)が多く、CURB-65から推定される死亡率が高く(8.1% vs 5.0%)、重症度が高かった(挿管 13.3% vs 2.8%、血管収縮薬 13% v 1.7%)、耐性菌が多かった(7.3% vs 0.6%)。不適切な初期抗菌薬の割合は同等であった(1.4% v 0.6%)。広域抗菌薬治療群で、30日死亡率(18.3% vs 4.4%)が高かった(重症かつ耐性菌割合が高いため当たり前と思われる)。

Unweighted multivariable regressionsやATT using IPTW multivariable regressionsを用いた統計解析の結果(解析方法はよくわからない...)、広域抗菌薬の使用は、高い死亡率、長い入院期間、コスト、CDI増加と関連していることが示された。医療施設関連肺炎(HCAP)は、死亡率との関連はなかった(市中肺炎と比べて死亡率が高いわけではない)。

 

解釈:市中発症の肺炎において、(原因微生物不明のことが多いが)耐性菌が検出される可能性は低く、緑膿菌や耐性グラム陰性桿菌、MRSAをカバー可能な広域抗菌薬は不要な可能性が高い。広域抗菌薬を使用した場合、予後が悪くなる可能性があるが、後ろ向き研究であること、広域抗菌薬群と通常治療群で重症度が同等ではないことから、確定的なことは言えない。

 

【結論】

実際に広域スペクトラムの抗菌薬を使用すると予後が悪化するかどうか、スタディデザインの問題もあるので、この報告からは結論は出せない(予後が悪化する可能性は残る)。市中肺炎において耐性グラム陰性桿菌やMRSAが関与することはほとんどないため、あえてカバーする必要はないし、カバーしないことによって予後が悪くなることもなさそうである。

 

Broad-spectrum antibiotic use and poor outcomes in community-onset pneumonia: a cohort study
Eur Respir J. 2019 Jul 4;54(1). pii: 1900057.
doi: 10.1183/13993003.00057-2019
PMID: 31023851

https://erj.ersjournals.com/content/54/1/1900057.long