General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

ATS/IDSAの成人の市中肺炎(CAP)の診断と治療ガイドライン 2019

【ATS/IDSAの成人の市中肺炎(CAP)の診断と治療ガイドライン 2019】

 

16の臨床的疑問に回答する形式です。以下、その回答(recommendation)を意訳したものを記載しています。

 重症市中肺炎の定義は、2007年のガイドラインと同様で、major criteria(血管収縮薬を必要とするseptic shock、人工呼吸器管理を必要とする呼吸不全)を1つ以上満たす場合、または、minor criteria(呼吸数≧30、P/F≦250、複数肺葉陰影、意識障害、BUN≧20、WBC<4000、血小板<10万、深部体温<36、大量補液を必要とする血圧低下)を3つ以上満たす場合、です。

 

 

Q1:成人のCAPにおいて、診断時の喀痰のグラム染色と培養は行うべきか?

・外来管理の成人の市中肺炎において、routineの喀痰グラム染色と培養を行わないことを推奨する。

・入院管理の成人の市中肺炎において、以下の状況で、治療開始前に喀痰検査(グラム染色・培養)を行うことを推奨する。1:重症市中肺炎の場合(特に気管挿管されている患者)。2a:MRSAまたは緑膿菌を経験的治療の対象とする場合。2b:MRSAまたは緑膿菌による感染症の既往(特に、気道感染症)。2c:過去90日間に入院・点滴抗菌薬投与を受けた場合。

※入院患者全員に一律に行うことについては、否定も肯定もしていない。

 

Q2:成人のCAPにおいて、診断時に血液培養を採取すべきか?

・外来管理の成人の市中肺炎において、血液培養を行わないことを推奨する。

・入院管理の成人の市中肺炎において、routineに血液培養を行わないことを提案する。

・入院管理の成人の市中肺炎において、以下の状況で、治療開始前に血液培養を行うことを推奨する。1:重症市中肺炎の場合。2a:MRSAまたは緑膿菌を経験的治療の対象とする場合。2b:MRSAまたは緑膿菌による感染症の既往(特に、気道感染症)。2c:過去90日間に入院・点滴抗菌薬投与を受けた場合。

 

Q3:成人のCAPにおいて、診断時に肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原検査を行うべきか?

・成人の重症市中肺炎を除いた市中肺炎において、routineに肺炎球菌尿中抗原検査を行わないことを提案する。

・成人の市中肺炎において、以下の状況を除いて、routineにレジオネラ尿中抗原検査を行わないことを提案する。例外は、1:Legionellaのoutbreakや最近の旅行歴などの疫学的因子が存在する場合。2:重症市中肺炎の場合。

・成人に重症市中肺炎において、レジオネラ尿中抗原検査と、下気道検体のLegionellaの選択培地を使用した培養検査・Legionella核酸増幅検査を行うことを提案する。

 

Q4:成人のCAPにおいて、診断時のインフルエンザ検査のための気道検体を提出すべきか?

・インフルエンザ流行期は、迅速インフルエンザ抗原検査よりも、迅速インフルエンザmolecular assay(例:核酸増幅検査)を行うことを推奨する。

 

Q5:成人のCAPにおいて、臨床判断に加えて、プロカルシトニンは、抗菌薬治療開始を控えるために使用すべきか?

・経験的抗菌薬治療は、臨床的に疑われて画像で市中肺炎と確定された場合、プロカルシトニンの値によらず、開始されるべきである。

※画像で浸潤影がある場合のプロカルシトニンの精度(ウイルス性肺炎と細菌性肺炎の鑑別)は、十分ではないという判断。

 

Q6:成人のCAPにおいて、入院治療または外来治療を決定する際に、予後予測ツールと臨床判断、または、臨床判断のみ、いずれを使用するべきか?

・成人の市中肺炎患者の入院の必要性の決定において、臨床判断に加えて、予後予測ツール(CURB-65よりPneumonia Severity Indexが好ましい)を使用することを推奨する。

 

Q7:成人のCAPにおいて、一般病棟入院またはICU入室を決定する際に、予後予測ツールと臨床判断、または、臨床判断のみ、いずれを使用するべきか?

・血管収縮薬を必要とするshockまたは人工呼吸器を必要とする呼吸不全の場合は、直接ICUに入室することを推奨する。

・人工呼吸器または血管収縮薬を必要としない患者では、臨床判断に加えて、IDSA/ATS 2007のminor severity criteriaを、入院病棟の決定に使用することを提案する。

 

Q8:外来管理する成人の市中肺炎で推奨される経験的治療はなにか?

・生来健康な成人(基礎疾患なし、かつ、耐性菌のリスク因子なし)のCAPの外来における経験的治療は、以下を推奨する。1:アモキシシリン 1回1g 1日3回(第1選択)、2:ドキシサイクリン 1回100mg 1日2回、3:アジスロマイシン 初日500mg、その後250mg 1日1回 4日間、または、クラリスロマイシン 1回500mg 1日2回(肺炎球菌のマクロライド耐性が25%未満の地域のみ)。

※必ずしも非定型肺炎をカバーする必要はない。

※耐性菌(MRSA緑膿菌)のリスク因子:気道検体からこれらの菌の検出歴、90日以内の入院と静注抗菌薬投与歴。

・基礎疾患(慢性心・肺・肝・腎疾患、糖尿病、アルコール依存症、悪性腫瘍、脾臓なし)のある成人のCAPの外来における経験的治療は、以下を推奨する(治療薬の優先順位はない)。1:βラクタム系抗菌薬と、マクロライド(またはドキシサイクリン)の併用。βラクタム系抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸 1回500mg/125mg 1日3回、または、セフポドキシム(バナン)1回200mg 1日2回。マクロライドは、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン。2:レスピラトリーキノロン単剤。レボフロキサシン1回750mg 1日1回、または、モキシフロキサシン1回400mg 1日1回。

※最近の抗菌薬の使用歴がある場合は、別のclassの抗菌薬を選択する。MRSA緑膿菌感染のリスク因子がある場合は、そのカバーを行う(選択すべき抗菌薬は、Q11参照。通常、外来で管理する肺炎で、この2つの細菌が問題となることはないため、recommendationには記載していない)。

 

Q9:入院管理する成人の市中肺炎で、MRSA緑膿菌のリスク因子がない場合、経験的治療として使用する抗菌薬はなにか?

・重症でなく、MRSA緑膿菌のリスク因子がない成人の市中肺炎では、以下の経験的治療を推奨する。1:βラクタム系抗菌薬(ABPC/SBT 1.5-3.0g 6時間おき、または、セフトリアキソン 1-2g 24時間おき、または、セフォタキシム 1-2g 8時間おき、ceftaroline 600mg 12時間おき)とマクロライド(アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン)の併用治療。2:レスピラトリーキノロン単剤治療(レボフロキサシン 750mg 24時間おき、または、モキシフロキサシン 400mg 24時間おき)。3:マクロライドとフルオロキノロンがどちらも禁忌で使用できない場合、上記のβラクタム系抗菌薬とドキシサイクリン 100mg 12時間おきの併用治療。

※βラクタム系抗菌薬単剤治療も検討されたが、マクロライドとの併用治療のほうが治療成績がよいとする研究が多いため、recommendationには採用されなかった。

MRSA緑膿菌のリスク因子がない成人の重症市中肺炎では、以下の治療を推奨する。1:βラクタム系抗菌薬+マクロライド(第1選択)。2:βラクタム系抗菌薬+レスピラトリーキノロン

 

Q10:入院管理する市中肺炎患者において、誤嚥性肺炎を疑った場合、標準治療に加えて嫌気性菌をカバーすべきか?

・肺化膿症または膿胸を疑わない限り、誤嚥性肺炎に対するroutineの嫌気性菌カバーは行わないことを提案する。

 

Q11:入院管理する成人の市中肺炎患者において、MRSAまたは緑膿菌のリスク因子がある場合、標準治療よりもスペクトラムが広域な抗菌薬を使用すべきか?

・成人の市中肺炎に対する抗菌薬のカバー範囲を決定する際に、医療施設関連肺炎(HCAP)というカテゴリーの使用をやめることを推奨する。

MRSAまたは緑膿菌のリスク因子(locally validated risk factors:地域の市中肺炎の疫学、各地域レベルでのリスク因子)がある場合のみ、MRSAまたは緑膿菌を経験的治療でカバーすることを推奨する。MRSAカバーは、バンコマイシンまたはリネゾリド(600mg 12時間おき)で行う。緑膿菌カバーは、PIPC/TAZ 4.5g 6時間おき、セフェピム 2g 8時間おき、セフタジジム 2g 8時間おき、アズトレオナム 2g 8時間おき、メロペネム 1g 8時間おき、イミペネム 500mg 6時間おき、で行う。

・文献上で示されたリスク因子はあるが、local etiological dataがない場合に、経験的治療で緑膿菌MRSAをカバーしている場合、培養結果が出るまで、経験的治療を継続することを推奨する。

※table 4によると、MRSAをカバーする状況は、(1)気道検体からのMRSA検出歴(目安は過去1年)、(2)最近の入院歴と静注抗菌薬使用歴があり、locally validatedリスク因子がある場合(重症な場合は経験的治療でカバー、非重症の場合は、検査で陽性の場合にカバー)。MRSAの検査は、喀痰培養と鼻腔MRSA PCRを行う。

※table 4によると、緑膿菌をカバーする状況は、(1)気道検体からの緑膿菌の検出歴(目安は過去1年)、(2)最近の入院歴と静注抗菌薬使用歴があり、locally validatedリスク因子がある場合(重症な場合は経験的治療でカバー、非重症の場合は、検査で陽性の場合にカバー)。

※48時間時点で、培養で検出されなかった場合は、MRSAまたは緑膿菌のカバーは終了。

 

Q12:入院管理の成人のCAPにおいて、副腎皮質ステロイドは投与すべきか?

・成人の非重症市中肺炎に対してroutineに副腎皮質ステロイドを使用しないことを推奨する。

・成人の重症市中肺炎に対してroutineに副腎皮質ステロイドを使用しないことを提案する。

・成人の重症インフルエンザ肺炎に対してroutineに副腎皮質ステロイドを使用しないことを提案する。

・市中肺炎と難治性septic shockにおける副腎皮質ステロイドの適応は、surviving sepsis campaignの推奨を支持する。

 

Q13:インフルエンザ検査陽性の成人のCAP患者において、抗ウイルス薬は投与すべきか?

・入院管理を必要とするインフルエンザ陽性の成人の市中肺炎患者に対して、オセルタミビルなどの抗インフルエンザ薬を投与することを推奨する(診断までのインフルエンザの罹患期間は問わない)。

・外来管理可能なインフルエンザ陽性の成人の市中肺炎患者に対して、抗インフルエンザ薬を投与することを提案する(診断までのインフルエンザの罹患期間は問わない)。

 

Q14:インフルエンザ陽性の成人の市中肺炎において、細菌性肺炎の治療は行うべきか?

・外来または入院settingどちらの場合でも、インフルエンザ検査陽性の臨床的・画像的に市中肺炎と診断された患者に対して、標準的な抗菌薬治療を行うことを推奨する。

※インフルエンザ肺炎単独の可能性もあるが、細菌性肺炎の合併の可能性もあるため。

 

Q15:状態が改善傾向の成人の市中肺炎の外来または入院患者の抗菌薬治療期間は?

・抗菌薬治療期間は、validateされた臨床的安定(バイタルサインの安定、食事がとれる、意識障害がない)の評価によって決定されるべきである。投与期間は、最低5日、かつ、患者が安定するまで、を推奨する。

※より長期の治療が検討される病態:(1)髄膜炎IE、その他の深部感染が合併している場合、(2)このガイドラインの範囲外の稀な微生物(Burkholderia pseudomallei, Mycobacterium tuberculosis, endemic fungi)。

MRSA緑膿菌肺炎でも7日間でよい、と記載されている。

 

Q16:状態が改善傾向の成人の市中肺炎の患者において、胸部画像の再検は行うべきか?

・症状が治療開始5-7日以内に改善した成人の市中肺炎患者において、routineの胸部画像の再検は行わないことを提案する。

 

 

 

Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America
Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.
doi: 10.1164/rccm.201908-1581ST
PMID: 31573350

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.201908-1581ST