S. aureus菌血症に対するPIPC/TAZは治療効果が低い可能性がある
【S. aureus菌血症に対するPIPC/TAZは治療効果が低い可能性がある】
【内容】
MSSA菌血症の治療を、全「入院」期間piperacillin/tazobactam(PIPC/TAZ)で行うと、ナフシリン/オキサシリン/セファゾリンで治療した場合に比べて、30日死亡率が高いことを示した観察研究。入院の全期間を同じ抗菌薬で治療した患者のみを対象とし、併用治療や治療変更をした患者は除外している。ナフシリン/オキサシリンとセファゾリンは同等。PIPC/TAZ群と、ナフシリン/オキサシリン/セファゾリン群を比較すると、前者で、高齢、高いAPACHE score、ICU入室率、以前の入院、感染focusのバリエーションが大きいという特徴があった。Propensity-score matched cohortにおいて、PIPC/TAZ群で死亡率が高いことが示された。
【解釈】
細菌学的検査の結果の記載はない(つまり混合感染がどの程度あったかは不明)。PIPC/TAZ群は抗菌薬投与を行っていた入院期間の中央値が「5日」で有意に短かった(その理由は不明)。両群の総治療期間、退院後の治療薬の選択とその期間、source control達成率の記載がないため、PIPC/TAZを5日程度投与したことが、予後の悪化につながったかどうかは断定できない。ちなみに、ナフシリン/オキサシリン/セファゾリン群とフルオロキノロン群(LevoまたはMoxi)の比較では、治療成績は同等だった。PIPC/TAZと同様の理由と、副作用の問題もあるため、フルオロキノロンをMSSA菌血症に選択することはない。
PIPC/TAZを含むBLBLIや第2-3世代セフェムは、標準治療よりもMSSA菌血症に対する経験的治療で成績が劣るという観察研究はいくつかある。この研究では、経験的治療と標的治療を分けていないが、入院期間が1週間程度であることを考慮すると、経験的治療に近いものと思われる。MSSA菌血症と診断した時点で、MSSAのみをtargetとする状況で、PIPC/TAZを継続することは、抗菌薬適正使用の観点だけでなく、治療効果からも避けたほうがよい、というrecommendationを出しやすくなったかもしれない。
ただし、かなり情報が不足している研究であること、今までの研究がすべて観察研究であることから、本当にPIPC/TAZの効果が劣るかどうか実際のところ断定はできないと思われる。そのため、肺炎からのMSSA菌血症だが、喀痰培養からCEZ耐性の腸内細菌科やインフルエンザ桿菌が検出されている状況では、その肺炎(菌血症ではない)の治療期間である最初の7日間は、PIPC/TAZまたはABPC/SBTで治療することは、十分考慮されると思われる。あえて、MSSA菌血症を万全に治療するために、CEZとフルオロキノロンの併用や、CEZと別のβラクタム系抗菌薬(例えばセフタジジムやアズトレオナムやセフトリアキソン)の併用(所謂「ダブルβラクタム」)を行うことはしないし、その有効性を示した研究もないと思われる。
Comparative effectiveness of exclusive exposure to nafcillin or oxacillin, cefazolin, piperacillin/tazobactam, and fluoroquinolones among a national cohort of Veterans with methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bloodstream infection
Open Forum Infect Dis. 2019 Jun 6;6(7):ofz270.
PMID: 31281864
doi: 10.1093/ofid/ofz270