General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

MSSA菌血症におけるセファゾリンvs黄色ブドウ球菌用ペニシリンのmeta 解析

【MSSA菌血症の治療で、セファゾリン黄色ブドウ球菌ペニシリンより優れている可能性がある】

 

方法:MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌感染症(主にMSSA菌血症)におけるセファゾリン黄色ブドウ球菌ペニシリンの効果を比較したmeta解析。primary outcomeは、全死亡率。secondary outcomeは、治療失敗、感染の再燃、副作用による抗菌薬治療の中断。黄色ブドウ球菌ペニシリンの種類、深部感染(IE、骨髄炎、肺炎)の割合が25%以上の研究、バイアスがlowまたはmoderateのもの、でサブグループ解析を行った。小児、死亡率を記載していない報告、セファゾリンまたは黄色ブドウ球菌ペニシリン以外を使用した報告、MSSA以外の細菌を含んでいる報告、動物実験、in vitro研究は除外した。

 

結果:19の研究(13390名の患者)を対象とした。すべて観察研究で、1つが前向き観察研究で、その他すべて後ろ向き研究であった。19の研究のうち、ナフシリンを使用したものが12、クロキサシリン3、オキサシリン2、フロキサシリン1、ナフシリンまたはオキサシリン1であった。19のうち18の研究は、MSSAが血液培養で検出されたもののみを対象としていた(resultのところには19と記載があるが、discussionでは18と記載がある)。13390名を対象としているが、N数が多い2つの研究で大半を占めている(N=7312とN=3167で、全体の78%)。セファゾリンによる治療は、全死亡率の低下に関連した(12.8% vs 14.4%)。サブグループ解析おいて、セファゾリンは、バイアスがlowまたはmoderateの場合、深部感染の割合が高い場合、全死亡率の低下に関連した。治療失敗と副作用による抗菌薬中断は、セファゾリン群で少なかった。感染の再燃を評価した9つの研究の解析では、セファゾリン群は、高い再燃に関連した。

 

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limitation:対象としたすべての研究は観察研究であり、ほとんどは後ろ向き研究であった。19の研究のうち11の研究は、moderateまたはserious biasがあると判定された。セファゾリンのinoculum effectについて検討した比較試験はこれまでに行われていない。

 

結論と解釈:MSSA菌血症(髄膜炎を除く)におけるβラクタム系抗菌薬の選択は、セファゾリンを第1選択としてよい(そもそも、日本には黄色ブドウ球菌ペニシリンは販売されていないので使用できない)。死亡率と治療失敗率が低く、副作用が少ない可能性が高い。これは、IE・骨髄炎・肺炎などのinoculum effectが問題となりそうな疾患群でも言えそうである。ただし、今回のメタ解析は、観察研究のみを対象としており、biasも大きく、2つの規模の大きい研究に影響を受けていると思われる。最終結論は、前向き無作為比較試験が必要である。このメタ解析で再燃が多かった理由ははっきりしないが(これまで報告されてきたメタ解析では、再燃率は同等)、治療終了後は、より注意して経過をみる必要があるかもしれない。

 

 

 

Cefazolin Versus Anti-Staphylococcal Penicillins for the Treatment of Patients with Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Infection: A Meta-Analysis with Trial Sequential Analysis
Infect Dis Ther. 2019 Aug 8.
doi: 10.1007/s40121-019-00259-4
PMID: 31392580

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs40121-019-00259-4