General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言について:急性咽頭炎・扁桃炎編

【「気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言」への感想第2弾】

 

(1)急性咽頭炎扁桃

疫学、診断は、「手引き」を踏襲しています。しかし、治療の項目において、根拠のない記載が目立ちます。「初回治療失敗例,重症例(とりわけ成人重症例)などいわゆるRed flagを示す病態への増悪・進展のリスクが高く初期治療の成否が重要となる場合において非ペニシリン系抗菌薬使用を妨げるのは患者利益につながらない」について、根拠の記載がありません。アモキシシリンよりも、「明らかに」優れていることは、その他の薬剤では示されていません。A群レンサ球菌による急性咽頭炎の治療において、経口セフェムのほうが治療失敗が少ない可能性を示した報告やメタ解析はありますが、その差はわずかであり、ペニシリンでほとんどの例が治癒します(1-5)。

 

またアモキシシリンの代替薬(アレルギーの場合など)について、「セファレキシンが「手引き」では推奨されるが,セファレキシンが使用できない環境では,他のセフェム系の使用を検討する」と記載があります。セファレキシンが使用できない環境、というものは現在ほとんどないものと思います(院内調剤で、採用していない場合くらいのはずです)。

 

図5(急性咽頭扁桃炎診療アルゴリズム)に根拠のない項目が挿入されています。「重症」の場合、アモキシシリンが第1選択としつつも、レスピラトリーキノロンや第3世代経口セフェムも選択肢として提示しています。「重症」かどうかを判定する重症度について引用されている論文では、A群レンサ球菌による急性咽頭炎の診断に有用であることが示されているのであって(つまりAMPCが必要かどうかを検討するための補助ツール)、「AMPC以外の抗菌薬のほうがよいかもしれない」という結論にはなっていません(6-7)。

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また、成人の治療薬選択について、本文中では、アモキシシリンの他の選択肢として、セフジトレン・ピボキシル、セフカペン・ピボキシル、ガレノキサシン(??)、セファレキシンの順に記載されています。また、小児の治療薬では、急性鼻副鼻腔炎と同様、低カルニチン血症と低血糖の懸念のあるピボキシル基含有経口セフェムが選択肢として羅列されています。

 

【個人の意見】

効果はほぼ同等であり、重篤な副作用の懸念が少なく、抗菌スペクトラムが狭いアモキシシリンを第1選択として、アレルギーで使用できない場合は、セファレキシンまたはクリンダマイシンを使用する、という従来の方針(「手引き」や各国のガイドライン)でよいと考えています。もし扁桃周囲膿瘍などの合併症が起こった場合は(この合併症を経口セフェムやレスピラトリーキノロンのほうが少ない、という根拠はありません)、点滴のアンピシリン/スルバクタムで治療しますので、経口第3世代セフェムやレスピラトリーキノロンの出番はまったくありません。

 

 

【参考文献】

1. Meta-analysis of cephalosporins versus penicillin for treatment of group A streptococcal tonsillopharyngitis in adults.
Clin Infect Dis. 2004 Jun 1;38(11):1526-34
PMID: 15156437
DOI: 10.1086/392496
https://academic.oup.com/cid/article/38/11/1526/284524

2. Different antibiotic treatments for group A streptococcal pharyngitis.
Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11;9:CD004406.
doi: 10.1002/14651858.CD004406.pub4
PMID: 27614728

3. Short-term late-generation antibiotics versus longer term penicillin for acute streptococcal pharyngitis in children.
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15;(8):CD004872.
doi: 10.1002/14651858.CD004872.pub3
PMID: 22895944

4. Comparative study of 5-day cefcapene-pivoxil and 10-day amoxicillin or cefcapene-pivoxil for treatment of group A streptococcal pharyngitis in children.
J Infect Chemother. 2008 Jun;14(3):208-12.
doi: 10.1007/s10156-008-0597-0
PMID: 18574656

5. Five-day oral cefditoren pivoxil versus 10-day oral amoxicillin for pediatric group A streptococcal pharyngotonsillitis
J Infect Chemother. 2008 Jun;14(3):213-8.
doi: 10.1007/s10156-008-0602-7
PMID: 18574657

6. Clinical Scoring System of Acute Pharyngotonsillitis
Adv Otorhinolaryngol. 2011;72:139-41.
doi: 10.1159/000324771
PMID: 21865713

7. Clinical score and rapid antigen detection test to guide antibiotic use for sore throats: randomised controlled trial of PRISM (primary care streptococcal management).
BMJ. 2013 Oct 10;347:f5806.
doi: 10.1136/bmj.f5806
PMID: 24114306