General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

肥満患者におけるダプトマイシン投与量

【肥満患者におけるダプトマイシン投与量は、実体重が基本だが、「調整体重」を使用してもよいかもしれない】

 

背景:FDAの推奨しているダプトマイシンの投与量は、実体重を使用したものであるが、肥満患者におけるdataは限られている。調整体重(adjusted body weight)と実体重(historical control)の臨床効果と安全性を検討した。

 

方法:後ろ向き単施設研究。BMI≧30 kg/m2でダプトマイシンを使用した患者を対象とした。CCr≦30は除外(腎機能によって投与量調整が必要な状況)された。調整体重群と実体重群を比較。調整体重は、理想体重(IBW)、実体重(ABW)とすると、IBW+0.4×(ABW-IBW)。両群とも、BMIは同等(調整体重群37、実体重群35)。Primary outcomeは、治療失敗(clinical failure:治療変更が必要な状態 or 団プトマイシン耐性菌の出現)。Secondary outcomeは、90日以内の再入院率と90日死亡率。

 

結果:101名で検討。感染focusは、骨髄炎が最多、菌血症、膿瘍、SSTI、腹腔内感染症など(実体重群で、骨髄炎が多く菌血症が少なかったが、他はほぼ同等)。原因微生物はMRSAVREが多かったが、調整体重群でVREが多かった(59.4% vs 30.8%)。体重あたりの使用量は、調整体重群で多かった(実体重群は6mg/kg以下が82%、調整体重群は22%であった)。ただし投与量の絶対値は、両群とも同等だった(調整体重群の投与量を、実体重ああたりの投与量に計算すると、実体重群と同等であった)。治療失敗率は、調整体重群6.1%、実体重群2%で統計学的には同等。90日死亡率も同等。調整体重群で、CPKの上昇が多かった。

 

解釈:統計学的有意差は検出されていないが、調整体重群で治療成績が悪い傾向がみられた。これは、VREの割合が大きかった影響かもしれない(DaptomycinはVREに対して効果が高くない可能性があるため)。実体重群に比べて、調整体重群は、体重あたりの投与量が明らかに多かったが、投与量の絶対値そのものは同等であった。調整体重群で、投与量の絶対値が同等であるにも関わらず、CPKの上昇が多かった理由は、はっきりしない。

 

結論:BMI≧30の患者では、約6mg/kg(実体重)と約8mg/kg(調整体重)の効果は同等の可能性がある。Enterococcus感染症や重症感染症では、推奨されている8-12 mg/kg(実体重)が推奨されているため(6mg/kgで治療することはない)、肥満患者における8mg/kg(実体重)vs 8mg/kg(調整体重)や、非肥満患者の8mg/kg(実体重)vs 肥満患者の8mg/kg(調整体重)などで、肥満患者における8mg/kg(調整体重)の有効性が示されれば、調整体重を採用できるようになると思われる。また、MRSAとEnterococcus属(特にE. faecium)は、基本投与量が異なるため、別々に検討したほうがよい。今のところ、6m/kgで治療する場合、実体重を使用することが妥当と思われる。8mg/kg以上で治療する場合は、どちらがよいかははっきりしない。高用量での治療となるため、CK上昇などの副作用に注意して経過をみる必要がある。

 

 

 

 

Daptomycin dosing in obese patients: analysis of the use of adjusted body weight versus actual body weight
Ther Adv Infect Dis. 2019 Jan 30;6:2049936118820230.
doi: 10.1177/2049936118820230
PMID: 30728962

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6354309/