General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

自家造血幹細胞移植後のrecombinant zoster vaccineの効果(シングリックス)

自家造血幹細胞移植後の帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)の効果は68%

 

【背景】

自家造血幹細胞移植後のVZV再活性化は多く、6-12か月程度抗ウイルス薬の予防内服が行われている(多くの国では、アシクロビル1回800mg 1日2回、日本では1回200mg 1日1回が多いと思われる)。ガンマ線で不活化されたVZVワクチン(investigational vaccine、heat-inactivated herpes zoster vaccine)は、自家造血幹細胞移植レシピエントに対して、63.8%の予防効果があることが示されている。このワクチンは、移植前30日、移植後30日・60日・90日の4回接種であった(Lancet 2018;391:2116–27)。この試験では、抗ウイルス薬の予防投与は移植後6か月以内が条件とされた。

 

一方、健康な高齢者において高い効果を示したrecombinant zoster vaccine(Shinglix:GSK)は、すでに米国では健康な高齢者に対するVZVワクチンの第1選択として推奨されている(0, 2-6Mの2回接種)(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018 Jan 26;67(3):103-108. doi:10.15585/mmwr.mm6703a5)。このワクチンは、自家移植後50-70日目から0, 1M, 3Mの3回接種または1M, 3Mの2回接種で良好な免疫応答が第1/2相試験で確認されており(Blood 2014;124(19):2921-2929)、今回第3相試験が行われた。

 

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【方法】

randomized, observer-blinded, placebo-controlled, phase 3 study。28か国167施設が参加した。2012.7から2017.2まで。Inclusion criteria:50-70日前に自家造血幹細胞移植を施行した18歳以上の成人(tandem auto-HSCTの場合は、2回目の後であれば参加可能)。除外基準は、VZV予防のため6か月を越えて抗ウイルス薬の投与が予想される場合、1年以内の水痘または帯状疱疹の既往またはVZVワクチン接種、HIV感染症など。1:1にワクチン接種群とplacebo群に割り付けられた。

 

ワクチン接種:0.5mlを2回接種、初回はauto-HSCT後50-70日、2回目は1-2か月後。placebo群は、同量の凍結乾燥したショ糖を生理食塩水で溶解したものを投与。

 

評価項目:primary endpoint 1つ、secondary endpoint 8つ、tertiary endpoint 11つ。主要評価項目は、研究期間の帯状疱疹確定例の頻度(初回接種後から研究期間終了まで)。副次評価項目は、eAppendix参照。

 

帯状疱疹の確定診断:real-time PCRで確定した。PCRで診断がつかない場合は、herpes zoster ascertainment committeeによって診断が決定された。

 

【結果】

1846名を対象とした。2回目のワクチン接種を受けたのは約94%。2群とも背景は同等。多発性骨髄腫が53%で最多。Follow-up期間(中央値)は、ワクチン群26.3か月、プラセボ群23.7か月。Modified total vaccine cohort(2回目接種から1か月後までに帯状疱疹を発症した参加者を除外したもの:つまりワクチンの効果がしっかりと発現した後の効果をみている)では、移植後なんらかの治療が行われたのはワクチン群で19%、プラセボ群で16%(ボルテゾミブが使用されたのは、それぞれ2.6%、2.7%)。両群とも約20%が、2回目接種して1か月後から、60日以上の抗ウイルス薬の予防内服が行われた(両群とも約50%で2回目接種1か月後から予防内服が行われなかった)。Follow-up期間は、約21か月であった。

 

主要評価項目である帯状疱疹発症率は、ワクチン接種群で有意に低く、total vaccinated cohortでは64%(34.7 vs 95.6 per 1000 Person-Years)、Modified total vaccine cohortでは68%(30.0 vs 94.3 per 1000 Person-Years)のワクチン効果を認めた。副次評価項目の帯状疱疹関連合併症は、両群とも少なかったが、ワクチン群で有意に減少することが示された。帯状疱疹合併症(帯状疱疹後神経痛を除く)が78%、帯状疱疹後神経痛が89%、入院が85%減少した。2回目接種の24か月後の細胞性免疫・液性免疫の指標は、ともにワクチン群で有意に上昇していた。副反応は、ワクチン接種群で多かった。局所反応は86%で起こった。1回目と2回目で、副作用の頻度は同等であったが、一部の参加者で、2回目の局所反応や全身症状(発熱や頭痛)が強かった。Post hoc解析では、2回目接種1か月後からの抗ウイルス薬の予防内服の期間が0日、1-60日、どちらの場合も、ワクチン効果を認め(それぞれ73%、72%)、帯状疱疹の発症率は十分低かった(それぞれ31.7, 24.5)。

 

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【解釈】

recombinant zoster vaccineを自家移植後50-70日目に1回目を接種し、その1-2か月後に2回目を接種した場合、約2年間の観察期間で、帯状疱疹の発生を68.2%減少させることが示された。50歳以上の免疫正常者の場合、90%以上の効果が報告されているため、それより効果が低かったことは、血液悪性腫瘍そのものや化学療法による免疫反応の低下を反映していると考えられる。2回接種であることと2回とも接種が移植後であること(heat-inactivated herpes zoster vaccineは移植約30日前に接種必要)は、ワクチン接種率の向上という点で有意である。

 

Limitation:帯状疱疹合併症の発生頻度は少ないため、power不足である。移植後2年を越えてからの効果については評価していない、移植前のVZV IgGの情報は検討していない。

 

【結論】

自家造血幹細胞移植後患者には、recombinant zoster vaccine(Shinglix:日本ではまだ販売されていない)の接種を推奨すべきである。抗ウイルス薬の内服は、2回目接種の1か月後(移植後3か月程度)に終了できるかもしれない。

 

 

 

 

Effect of Recombinant Zoster Vaccine on Incidence of Herpes Zoster After Autologous Stem Cell Transplantation
JAMA. 2019 Jul 9;322(2):123-133
doi: 10.1001/jama.2019.9053
PMID: 31287523

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2737683