General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

血液悪性腫瘍患者(主に造血幹細胞移植後)におけるCMV感染症の診療ガイドライン

【血液悪性腫瘍患者におけるCMV感染症診療ガイドライン2019】

 

(1)重要な点

・HSCT後のCMV diseaseは臨床研究では2-3%だが、real-worldでは5-10%

臍帯血移植の場合、CMV再活性化のriskは高く、腫瘍の再発以外での死亡率が上昇

・HSCT後100日以内のCMV diseaseは、ここ数十年減少傾向

・生着前のCMV diseaseは稀だが、死亡率が高い

・近年のCMV diseaseの多くは、消化管病変である(70-80%)

 消化管病変の場合、CMV antigenemiaやPCRは、診断時陰性のことが多い

・CMV-seropositiveレシピエントはseronegativeレシピエントより予後が悪い

・CMV-seropositiveレシピエントに、CMV-seronegativeドナーは、予後が悪いかも

・CMVの再活性化と白血病の再発の関連は、最終的な結論はでていない

・pre-emptive therapy開始の検討、治療への反応を評価する場合、PCR定量を推奨

PCR測定は、全血(whole bloodでも血漿plasmaでもよい

・同種移植レシピエントに対するガンシクロビル予防投与は、CMV diseaseを減らすが、予後を改善しない。GCVとVGCVで予後に差はない。予防投与と先制攻撃的治療に予後に差はない。

・letermovirは、CMV-seropositive HSCTレシピエントでCMV infectionを減らした。CMV diseaseではない。HSCT後24週までの全死亡を減らす可能性が示されている。

・maribavirは、第3相試験でCMV diseaseを減らさなかった

・pre-emptive therapyは、最低2週間行う。少なくとも1回はCMV検査陰性を確認。

・治療開始最初の2週間以内のviral loadまたはantigenemiaの上昇で、必ずしも治療を変更する必要はない

・治療開始2週間の時点でCMVが検出される場合は、maintenance therapy(1日1回投与)を検討してもよい

・CMV肺炎の治療は、歴史的にGCVとIVIG(±G-CSF)で行われてきた

・抗ウイルス薬への耐性は0-10%、genotypic assayを行う

 ガンシクロビル:UL97またはUL54の変異

 ホスカルネットとcidofovir:UL54の変異

 Letermovir:UL56の変異

・CMVの耐性変異検査を行う基準は今のところわかっていない

・refractoryの定義:2週間の治療で、viral loadが1 Log10以上の増加

・自家移植患者では、CMV infectionは同種移植と同等、CMV diseaseは少ない(1%未満)

・HSCT以外の血液悪性腫瘍に対する化学療法では

 CMV sero-positive:CMV antigenemiaは2.5%で陽性となる

 CMV sero-negative:CMV antigenemiaは14.3%で陽性となる

 プリンアナログやalemtuzumabを使用しているリンパ性悪性腫瘍でrisk高い

 Hyper-CVAD療法でも多い(約10%で再活性化or臓器病変が起こる)

・最近の薬剤であるidelalisibを使用中は、CMV monitoringが推奨されている

 

 

(2)推奨

・すべてのレシピエントとドナーは、HSCT前にCMV IgGを確認すべき(AII)

・CMV-seronegativeレシピエントには、CMV-seronegativeドナーを選択すべき(AI)

・骨髄破壊的前処置を行うunrelated allogeneic HSCTの場合、CMV-seropositiveレシピエントには、CMV-seropositiveドナーを選択すべき(BII)

・移植後のシクロフォスファミド大量療法を用いたハプロ移植の場合、CMV-seropositiveレシピエントでの、ドナーstatusはどちらでもよい(BII)

白血病の再発を減らす目的でCMVの再活性化を許容する戦略は推奨しない(DII)

・同種HSCTレシピエントは、血漿または全血のPCRでCMVをmonitorすべき(AII)

PCR定量は、pp65抗原検査(antigenemia)より高感度のため、第1選択とすべき(BII)

・CMVは移植後100日までは少なくとも週1回monitoringすべき(AII)

・CMVのmonitoringは、各患者で同じ方法で行うべき(AIII)

・以下の患者では、CMV monitoringを延長することを推奨する:急性または慢性GvHD、CMV再活性化の既往、mismatched臍帯血移植、ハプロ移植(移植後大量CYなし)、長期の効果ある予防内服施行、免疫不全状態持続。

・IFNγ産生CMV特異的T細胞のmonitoringは、CMV infectionの管理に有用かも(BII)

・pre-emptive therapy(AI)の第1選択薬には、GCVまたはホスカルネットが使用可能である(AI)。重度の消化管GvHDがなければVGCVも使用可能(AII)。GCVとホスカルネットの半量ずつの併用治療は行わないことを推奨する(DIII)。第2選択薬は、最初に使用しなかったGCV or ホスカルネット(AII)。第3選択薬に、cidofovirを考慮するが、腎機能に注意して使用する(BII)。GCVとホスカルネットの併用も、第2 or 3選択で検討される(CII)。可能であれば、免疫抑制を弱めるべき(BIII)。レフルノミドとアーテスネートの併用も考慮される(CIII)。IVIGは推奨しない(DIII)。

・CMV diseaseの治療は、GCVで行うことを推奨する(AII)。GCVが副作用で使用できない場合は、ホスカルネットを使用する(AIII)。CMV肺炎では、免疫グロブリンの併用を考慮してもよい(CIII)。第2・第3選択は、cidofovirや、GCVとホスカルネットの併用(full dose)、が使用可能である(BII)。CMV肺炎以外では、IVIGの追加は行わないことを推奨する(BII)。CMV網膜炎の場合、GCVまたはホスカルネットの硝子体注入の併用が可能である(BII)。

・標準的な自家移植レシピエントでは、CMVのroutine monitoringとpr-emptive therapyは行わないことを推奨する(DII)。

・alemtuzumab使用中のCMV infectionに合致した症状がありCMV検査が陽性の場合は、CMVのmonitoringと治療を行うことは、ひとつの選択肢である(BII)

・idelalisib使用中は、CMV management strategyが推奨される(BII):CMV sero-negativeの患者の輸血は、CMV-seronegativeまたは白血球除去したものを使用すべき(BIII)。CMV感染症に一致した症状がある患者では、CMV検査を考慮する(BII)。症状のある患者では、GCV またはVGCVで治療すべき(BII)。CMV sero-positiveの場合、CMV PCRのmonitoringを考慮する(CIII)。pre-emptive therapyを考慮する(CIII)。CMV infectionによる症状がある場合、症状改善までidelalisibの中断を考慮すべき(BIII)。

・上記以外の血液悪性腫瘍患者において、routineのCMV予防は推奨されない(DIII)。routineのmonitoringとpre-emptive therapyも考慮する必要はない(DIII)。

 

 

 

Guidelines for the management of cytomegalovirus infection in patients with haematological malignancies and after stem cell transplantation from the 2017 European Conference on Infections in Leukaemia (ECIL 7)
Lancet Infect Dis. 2019 Aug;19(8):e260-e272.
doi: 10.1016/S1473-3099(19)30107-0
PMID: 31153807

https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(19)30107-0/fulltext