General-IDのブログ

神戸で感染症内科医をやっています。日々勉強したことを共有しています。基本的に、感染症に関連した内容です。所属施設の公式見解ではありませんので、その点はご了承ください。

セフェピムの神経毒性の頻度・血中濃度との関連・リスクについて

セフェピムのトラフ濃度と神経毒性の関連、セフェピムによる神経毒性のリスク因子を検討したスイスの後ろ向き研究。

 

セフェピムを投与されてトラフ濃度(投与前1時間以内)を測定された319名を対象とした。神経毒性(3回投与以降に出現したもの)は23.2%でみられた(「おそらく」セフェピムの投与と関連したもの)。トラフ濃度高値と神経毒性の関連が示された。

 

神経毒性が出現した患者は、腎機能が低く、院内死亡率が高かった。特にeGFR < 30 mg/min/1.73m2の場合は、神経毒性がみられることが多かった。トラフ濃度7.7 mg/L未満では神経毒性はなく、38.1 mg/L以上では全例で神経毒性がみられた。濃度が12 mg/L以上だと25%、16 mg/L以上だと50%で神経毒性がみられた。

 

セフェピムの神経毒性のリスク因は、ICU入室、血液悪性腫瘍、腎機能障害。結論は、腎不全患者などではセフェピムの神経毒性のリスクが高く、トラフ濃度7.5 mg/L未満を目標としたほうがよい。
神経毒性の内訳:混乱/不穏/幻視が62%、意識障害/昏睡が43%、ミオクローヌスが8%。


その他:セフェピム開始から神経症状が出現するまでの中央値は2日間。症状出現後、投与量の調整または投与の中止が行われ、多くの症例で、2日(中央値)で症状が改善傾向となった。


limitation:後ろ向き研究。すべての神経毒性がセフェピムによるものとは限らない(ミオクローヌスが8%と低い。環境の変化や急性期疾患によるせん妄でも説明が可能な症状が多い)。セフェピム投与中の一部の患者に血中濃度測定をしているだけであり、血中濃度測定が施行された患者は高用量のセフェピムを投与されていたり、腎不全がある患者が多い。そのため、実際の臨床現場で、全体の23.2%も神経毒性が起こるとは考えられない。

 

解釈:セフェピム脳症が23.2%も起こるとは考えにくく、この頻度そのものは実際の臨床と乖離している。腎機能に応じてセフェピムの投与量を調整する必要性があること、トラフ濃度の測定が有用な可能性が高い(7.5 mg/L以下)ことがわかった(しかし日本の臨床現場で、セフェピムの血中濃度測定測定は困難と思われる)。

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1198743X19303799?fbclid=IwAR2-Xv3UU26eurcwcQFXqYNyU4PsE1wwDKaoSWb94nSAOHS9-Begg5DYOGw